記憶を定着させ、行動に結びつける

今月の研修:記憶のメカニズム

非常に重要な内容にも関わらず、何故か瞬時に思い出せるまでには記憶に定着しない、周囲のメンバーがなかなか覚えてくれない。そのような経験をしたことはありませんか。

記憶する力は、才能によって決まるわけではありません。

記憶には「メカニズム」が存在します。

この「記憶のメカニズム」を理解し、活用することで効果的に記憶を定着させることができます。

短期記憶が長期記憶へと結びついた経験

私は、本来は「短期記憶」で止めるつもりだったにも関わらず、なぜか何年経っても忘れない「長期記憶」へと記憶が変化した経験があります。

その記憶している内容とは、"4BF"です。

意味のない3つの英数字。これは、「駐車場の位置番号」です。

どう考えても何年も覚える必要のない、記号とも取れるこの単語。

なぜか私はこの”4BF"を何年もの間記憶しています。

小学校四年生の夏、私は母、弟ととある映画を見に行きました。

母が運転する車に乗り、映画館に向かったのですが、到着後に母から、「後で車を見失わないように駐車場の番号を覚えておいてね。」と言われました。

駐車場の位置番号を確認した私は、後で母に伝えるため、番号を覚えようと何度か繰り返し声に出して暗記をしました。

その後、ショッピングへ向かった母と別れ、弟と二人で映画館に入場しました。

そして、映画鑑賞後、私は母に駐車場の番号を伝え、無事車を見失うことなく帰宅することができました。

ここまでは、日常的によくある話だと思います。

しかし、大学四年生になった今でも、私はこの駐車場の番号をはっきりと覚えています

私は長年の間駐車場の番号を記憶していることを不思議に思っていました。

そこで、今回の研修にて学んだ「記憶のメカニズム」に当てはめて分析をしてみたいと思います。

まず、長期記憶には3つの記憶の種類が存在します。

記憶の種類

  • エピソード記憶:出来事の経験そのものと、それを経験した時のさまざまな付随情報の両方が記憶されていることを特徴とする記憶
    • 小学校四年生の夏、映画館を見に行った日の情景・母の発言・弟の反応・駐車場の色・鑑賞した映画の内容を鮮明に覚えている
  • 意味記憶:知識に相当し、言語とその概念にあたる記憶
    • "4BF"とは、立体駐車場の4階、入り口から入って右に曲がったところの位置を示している
  • 手続き記憶:運動技能、知覚技能、認知技能など、習慣となった記憶
    • 何度も声に出して覚えたことで、何も考えずともふと口から”4BF”という単語が出てくる

長期記憶には上記のような種類が存在します。

上記の特徴に当てはまった記憶は長期記憶として脳に保存されます。

"4BF"という単語に関連する記憶は、上記の種類に当てはまっていると考えられますが、なぜ長期記憶に結びついたのでしょうか。

今回の例で挙げた”4BF”は覚えなくてもよい単語でしたが、覚える必要のある記憶こそ長期記憶へと変化させたいですよね。

そこで、記憶を長期記憶に結びつけるにはどうすればよいのか。記憶のメカニズムから学んでいきましょう。

記憶のメカニズム

記憶が定着するまでには以下の流れを辿ります。

まず、外部から刺激を受けると、その情報は各感覚器官によって瞬間的に保持されます。これが「感覚記憶」です。瞬間的に保持された記憶の中で、注意を向けられた情報、つまり必要であると判断された情報のみ「短期記憶」として保持されます。

そして、脳の海馬に保持された短期記憶は、必要と判断されると大脳皮質に移動し、長期記憶となります。

この際、記憶が情動的な出来事に関連すると、扁桃体が長期記憶の形成・貯蔵を促進します。

記憶と共に「強い興味」「緊張感」「主体性」「繰り返し」などの感情が伴った出来事の方が記憶に残りやすいことは、皆さんも日常の中で経験したことがあると思います。


例えば学校の授業を受けていて、単に先生の授業を聞いていただけの回よりも、発表機会や発言が求められるなど、主体的な取り組みが必要とされた授業の方が、記憶に残っているでしょう。

「駐車場の位置番号」を覚えた当時の自分を振り返ると、この情動的な部分が大きく影響したため、一時的な記憶が長期的な記憶に結びついたと考えられます。

  • 主体性
    • 初めて二歳下の弟を連れて二人で映画館に入ることから、姉としての責任感を強く感じていた。
    • 自分が母の力になりたいと考えていた。
  • 繰り返し
    • 映画館に入場後も番号を忘れまいと何度も繰り返し声に出していた

以上のように、記憶が定着するまでにはメカニズムが存在します。

効果的に記憶を長期的に結びつける記憶のメカニズムを理解し、活用することは、自分自身はもちろん、周りのメンバーに必要な情報を覚えてもらう際に重要になります。

組織に記憶を定着させる

私は現在、キャリア支援団体「エンカレッジ」にて活動を行っています。エンカレッジ早稲田支部には100名以上のメンバーが在籍し、大学生のキャリア選択を広げるために日々活動を行なっています。

さまざまな異なるバックグラウンドや考え方をもつメンバーが一つの組織に所属し、活動をする場合、共通の使命・目標・価値観の存在が重要になります。

そこで、エンカレッジ早稲田支部 は以下のようにミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を設定しています。

  • Mission
    • 心に火を、生き様に志を、日本に変革を。
  • Vision
    • 自分らしいキャリアを伝播する先駆者となる
  • Value
    • エンターファースト・誰もが主人公・自らが楽しむ

私たちが所属している組織は9つの部署に分けられ、それぞれが業務を行なっています。それぞれの部署に所属するメンバーが一体となって組織全体としての目的を完遂するためには、目の前の業務が「MVVに繋がっているか」という視点を常に持ち続け、それに沿った行動を意識することが欠かせません。

しかしながら、そのように設定しているMVVが、メンバーに浸透しきっていないのが現状です。メンバーと話す中で、MVVを自分の言葉で説明し、行動を意識しているメンバーが多いとは言えません。

今後は、所属するメンバーがMVVを覚え、活動目的を理解できている状態を目指して行きます。MVVを全員が理解し、行動している状態を作ることができれば、自分の所属する部署以外の業務の目的にも目を向けることができ、より組織として一体となることができるからです。

そこで、メンバーがMVVを覚え、これを意識して日々の業務を実施できる状態を生むため、二つの行動を起こしたいと考えています。

1.繰り返しMVVに触れる機会を作る

記憶のメカニズム上、記憶を固定化するためには定期的に海馬・扁桃体を刺激し、効果的・効率的に復習をすることが重要です。

現状、MVVは一部のミーティング議事録の上部に記載がされている程度で、日常的にMVVを目にする機会はほとんどありません。議事録の上部に記載されているものも、意識的に確認をするメンバーでない限り、形骸化してしまっています。

そこで、意識的にMVVを発信し、共有する機会を設定して行きます。

具体的には、

  • 議事録の上部に記載されているMVVを読む機会を設ける
  • 支部メンバーが日常的に利用するSNSにてMVVを発信する
  • メンバーが使用する資料にMVVを掲載する

以上のような行動をとることによって、意図的にメンバーがMVVに触れる機会を増やし、記憶に定着させる環境を作っていきます。

しかし、単純にMVVを見る機会を増やすだけでは、メンバーの行動に変化を生むほど浸透させることはできません。

本当の意味でメンバーに浸透させるためには、メンバーが意味を理解し、自分ごととして捉える状態を作る必要があります。

そこで、記憶を「意味記憶」や「エピソード記憶」へと結びつけるため、次の取り組みを行います。

2.所属セクションにてMVVに沿った行動を振り返る時間を設ける

私は現在、内人事を扱う部署のリーダーを務めています。私が所属する部署が持つ役割の一つが「MVVを組織全体に浸透させること」です。しかし、現状、浸透させる立場である部署のメンバー自身がMVVを自分の中に落とし込み、行動することができていません。

そこで、各メンバーが持つ業務の目的をMVVと結びつけるため、議論の時間を設けます。単純にMVVを確認するだけではなく、自身の行動の中でMVVに沿っていると感じた点を拾い上げ、同時に意識することができなかった部分はどういった点がMVVと結びついているか再確認をします。記憶のメカニズム上、情動的な出来事に関連づけられた記憶は扁桃体によって記憶の形成と貯蔵が促進されます。実際の活動とMVVとの結び付けを強固なものにすることで、主体的にMVVに結びつけた行動を意識できる状態を作り上げて行きます。

そして、そういった部署内での活動や意識を他の部署にも伝播していくことで、組織全体にMVVを定着させていきます。

これから研修を受ける方へ

研修では、記憶の種類や記憶が定着するメカニズムを学び、今までに実践できていた部分と、今後新たに実践できることについて考えて行きます。自分の記憶を確実に定着させるだけでなく、メンバーにも情報を強度高く記憶を定着させるためにも、記憶のメカニズムを理解し、活用することは重要であると考えます。

研修で学んだこと

  • 記録と記憶の違い
  • 記憶の種類(感覚、短期、長期)
  • 記憶のメカニズム
  • 長期記憶の種類(エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶)
  • 効果的・効率的に記憶させる・するための工夫
  • 記憶の固定化

この記事の著者/編集者

川村杏   

早稲田大学商学部の4年生。
"新たな価値観を知りたい"という思いのもと、幼少期から多くの挑戦を重ねてきた。
大学時代は様々な方法で将来の進路に悩む中高生のサポートに力を入れてきた。大学4年時は自らができる価値提供先を増やしたいと考え、キャリア支援団体にて就活生の自立支援をおこなっている。団体においては人事部署のリーダーを務め、組織力の向上を目指している。

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