記憶の主体者として、「記憶していたい」言葉を届けられる存在に

今月の研修記憶のメカニズム

はじめに

 「人口に膾炙(かいしゃ)する」

 みなさんはこの言葉を聞いたことはありますか?

 「世間に広く知れ渡り、もてはやされること」という意味で、実は大学受験の現代文で頻出の言葉なのですが、小難しい言葉に感じられて覚えにくいですよね。

 ですが、中学時代、勉強を怠けに怠け、”記憶上手”とは程遠い場所にいた私が、高校時代に教わったこの言葉も教わったときの光景まで、今なおしっかりと記憶しています。

 それは、「あの人の言葉は記憶していたい」と思える、ある恩師に教えていただいた言葉だからです。そこでこの記事では、メンバーに「あの人の言葉は記憶に残るし、記憶に残したい」と思われる人。そんな存在を目指す全ての人に向けた、記憶を起点とした論を展開したいと思います。

「記憶していたい」と思わせるには

 ではまず、「あの人の言葉は記憶していたい」と思われるために必要な要素を考えていきます。そこで具体例として、多くの教え子たちが「あの先生の言葉はずっと覚えている」と言う、既述の私が出会った恩師についてお話ししようと思います。

 その恩師は現代文の先生だったのですが、現代文の分野に限らず、文化学、政治学、医学などの幅広い知識を誰よりも楽しそうに記憶している姿が印象的で、生徒以上に記憶することに誠実に向き合っていらしてました。

 また、その膨大な知識量で、文系学部から医学部志望にまで対応した網羅的でかつリアルタイムな小論文対策を実現し、恩師が様々な記憶から紡いだ言葉を、咀嚼し思考することが、多くの生徒にとって効果的な小論文対策になっていました。(ちなみに、恩師の小論文の出題予測は、毎年、主要大学のどこかで必ず当たっています)

 その上で、自身の記憶と言葉を生徒に還元しようと何度も何度も発信し続けてくださっており、実際、ある教え子の方は、20年以上経った今でも、その恩師の教えや言葉は鮮明に記憶に残っていると仰っていたほどです。

 そして、そんな恩師の学びと記憶の在り方について一般化すると、以下の要素で分析できると思います。

  • 誰よりも学ぶことを楽しんでいる、記憶を楽しむプロである
  • 記憶を繋げ、自身の視点や言葉に還元する、記憶編集のプロである
  • 自身の記憶を周囲に発信し続ける、記憶発信のプロである

 すなわち、「あの人の言葉は記憶していたい」と思われるような人になるためには、まずは自分自身が記憶のプロでなければいけない。「学び上手が、教え上手」と言われるように、”自らが記憶の主体者として楽しむ”姿勢が大切なのではないでしょうか。

記憶のメカニズムを理解する

1. 記憶の種類を理解する

 ですが、自らが記憶の主体者として楽しんで記憶するために、がむしゃらに努力するだけでは限界があると思います。記憶を自ら楽しむためには記憶のメカニズムを知っている必要があるでしょう。

 よってここからは、冒頭の「人口に膾炙する」という小難しい言葉をどのように記憶したか、という実体験から、記憶の種類(特に長期記憶の種類)についてお話しします。中学時代、補習常連組であった記憶下手の私が、なぜこの言葉を鮮明に記憶することが出来たのか。このような視点で、記憶に苦手意識がある方でも、親近感を持ちながら読み進めていただければと思います。

  • 「人口に膾炙する」
  • ①意味記憶物事の一般的な知識や情報についての記憶
    • 意味
      • 世間に広く知れ渡り、もてはやされること
    • 語源
      • 「膾」は、なますのことで、細かく切った肉や魚のこと。「炙」は、あぶった肉のこと
      • なますもあぶり肉も、多くの人が知っており好んで食べることが語源
  • ②エピソード記憶個人的な経験や思い出と結びついた記憶
    • 恩師が「私もお肉が大好きなの」と語源に関連してお肉愛を語っていた
    • 授業プリントには、明らかにおかしい大きさの、でかでかとした太字で、「人口に膾炙する ※頻出」と手書きで書いてあった
    • 恩師が「来週の小テストに出るかもしれない」と控え目に、でもしっかりと主張していた(実際に、配点3倍で出題された)
  • ③手続き記憶何度も繰り返すことで身につく記憶
    • 小テストに何度も出題され、最終的にに学年の正答率が90%を超えていた

 このように、分類してみると、私の「人口に膾炙する」という言葉に関する記憶は、①意味記憶②エピソード記憶③手続き記憶の全種類の長期記憶に該当するものであったと考えられます。そう考えると、例えば「意味記憶一辺倒で記憶する」といった方法ではなく、記憶を自ら楽しむために、それぞれの記憶の種類を、時に結びつけながら活用することが重要なのではないでしょうか。

2. 記憶のプロセスを理解する

 その上で、「どうしたら記憶できるか」ということへの理解も、記憶を自ら楽しむために必要なことでしょう。ここからは記憶のプロセスにおいて大切なポイントを解説します。

 そこで、脳が情報を記憶する過程と要点を、先ほどの「人口に膾炙する」の話を例に以下にまとめます。海馬扁桃体という、脳の機能にいかに記憶させるか、ということを意識して読んでいただけるとイメージしやすくなると思います。

  • ①海馬:記憶すべき必要な情報かどうかを分ける
    • 意識すべきキーワード必要性
    • 頻出問題であるため、他の語句に比べて、覚える効果が大きいという話を聞いた
      • 覚えると+の効果が生まれるという意味でのポジティブな必要性
    • 今後、小テストで全員が正答するまで出題し続けると言われた
      • 正答できないマイナスな未来を避けたいという、危機感としての必要性 (緊急性)
  • ②扁桃体:海馬で重要とされた中でも、情動的な記憶を促進する
    • 意識すべきキーワード情動的
    • 恩師のユーモア溢れる教え方や小話が面白かった
      • 新鮮な授業で、かつ楽しく記憶していた
    • 授業や周りの生徒の雰囲気が良く、しぶしぶではなく自ら覚えようとした
      • 主体的に記憶していた

 このように整理すると、必要性情動的が脳に記憶させるために大切なポイントだとわかります。そして、”自らが記憶の主体者として楽しむ”姿勢の重要性と結びつけると、その必要性や情動はポジティブなものであった方がいいでしょう。つまり、自身が触れた情報や体験に”+の感情と結び付けたポジティブな必要性”を見出す努力をし続けること。これが、”自らが記憶の主体者として楽しむ”姿勢の実践なのではないでしょうか。

 そして、自身の情報や体験に”+の感情と結び付けたポジティブな必要性”を見出す努力を謙虚に実践し続ける人は、現状に満足せず、今に誠実に向き合う人として周囲の尊敬も得られるでしょう。あの人の言葉は記憶していたい。そう思ってもらえる人は、誰よりも謙虚な記憶の主体者であるからこそ、周囲の記憶を鼓舞する伴走者になれるのです。

最後に

 今回の記事を要約します。

  1. 自らが記憶の主体者として楽しむ
    1.  「あの人の言葉は記憶していたい」と思われるような人になるためには、まずは自分自身が記憶のプロでなければいけない
  2. 記憶のメカニズム
    1. 記憶の種類
      1. 意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶
      2. 記憶を自ら楽しむために、それぞれの記憶の種類を、時に結びつけながら活用することが重要
    2. 記憶のプロセス
      1. 記憶の過程でのキーワード
        1. 海馬:必要性
        2. 偏桃体:情動的
      2. 自身が触れた情報や体験に”+の感情と結び付けたポジティブな必要性”を見出す努力をし続ける

 最後に

 「あの人の言葉は記憶していたい」と思われる言葉をメンバーに届けたい人は勿論

 今を全力で生き、成長し続けたいと思う人。

 自身の経験や知見を周囲に還元したい人。

 そんな、自身の記憶を周囲や成長に還元したいと思える全ての方には、今回の「記憶のメカニズム」というテーマに限らず、リーダーに必要な学び溢れるA&PROの研修への参加をお勧めします。そのうえで、私も誰よりも謙虚に記憶の主体者であり続ける努力をし、研修や日々の活動で自身の記憶を周囲に還元する存在でありたいと思います。

研修で学んだこと

  • 「記録」だけでなく「記憶」を高めることが重要
  • 記憶するための工夫をメカニズムを理解し、実践する必要がある
  • 相手に記憶させるには、まず自分が記憶のプロでなければならない
  • 記憶には、短期記憶、中期記憶、長期記憶がある。
  • 長期記憶の中には、意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶がある。
  • 忘却曲線を意識した仕組み作りが大切。(思い付きでの復習は×)
  • 規則正しく、まとまった睡眠で記憶を整理する時間を作る

この記事の著者/編集者

本田花   

早稲田大学文化構想学部卒。大学3年時までは、中高生の留学支援団体であるAFS日本協会神奈川支部の学生代表として、コロナ禍の組織再生に奮闘。大学4年時には、日本最大のキャリア支援団体en-courage早稲田支部において、面談部署の責任者としてキャリア面談サービスの設計・研修体制の改善に挑戦。
上記の経験における多くの人や価値観との出会いを糧に、社会人としては、総合コンサルティングファームにて「他者に還元出来る知見や経験に溢れた利他的なコンサルタントになる」ことを志している。

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新着コメント

  • 藤井裕己

    2022年08月26日

    こちらの記事を読んで、人に何かを与える上でまず自分が楽しむことの重要性を学びました。

    これまでに出会った優れたリーダーたちを思い返すと、まず自身が楽しみ、周囲に伝播させる。こうして、メンバーの主体的な学びを引き出していました。

    周囲にポジティブな影響を及ぼすリーダーであるために、こちらの記事で書かれている行動を実践していきたいと思います。

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