「聴き、伝える」ことで真の価値へ

今月の研修:アサーティブコミュニケーション

自分の意見を押し殺す落とし穴

みなさん、このような状態になったことはありませんか?

  • 相手の話を聴くばかりでなかなか自分の意見が言えない
  • 人から不当に批判された時、思わず黙ってしまう

もちろん、相手の話をきちんと傾聴することは大切です。相手との信頼関係を築かないことにはコミュニケーションは始まりません。

しかし、聴いてばかりで自分の意見を押し殺していたらどうなるでしょうか?

その状態は、Passive(受身型)なコミュニケーションと定義されます。自分を尊重せずに相手を尊重し、相手に遠慮して言い出せない状態です。

詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

このようになると、相手と適切な方向性に進んでいくことができないとともに、放置すると不満が爆発して皮肉や悪口など周囲を巻き込んでチーム全体が後ろ向きになってしまうこともあります。

それを回避するために必要なのがアサーティブコミュニケーションと呼ばれるものです。

今回は、こちらについて一緒に考えていきましょう。

相手に伝えるためのDESC法

アサーティブコミュニケーションとは、「自分と相手の両方を尊重しより良い未来へ進んでいくためのコミュニケーション」のことです。

そして、このアサーティブコミュニケーションを成功させるための方法としてDESC法というものがあります。

今回は、こちらのDESC法とその中でも見落としがちなE(Express)の際の注意点を学んでいきたいと思います。

DとEを行き来することでSとCに向かうことができます!

D(Describe)=事実を描写する

アサーティブコミュニケーションの中でまず行うことは、まず相手の状況を聴き、客観的に言葉にして伝えることです。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

ここでは、自分の気持ちにベクトルを向けずに、ただただ相手の言葉を受け取り、相手は何を考えているのか、求めているのかに寄り添うことが重要になります。

まずはしっかりと相手の状況を傾聴し、自分を理解してくれているという信頼関係を作ります。こちらは、相手の話を聴くばかりでなかなか自分の意見が言えないみなさんなら自然にできている部分もあるかもしれません。

E(Express)=感情を表現する

そして、相手を受け入れた後に初めて自分の要求や意見を誠実に表現していきます。その上で大切になってくるのが、相手の話を聞いて自分が思ったこと・感情を表現するということです。

決してすぐに小手先の解決策には移行しません。感情を伝えることでお互いの理想のすり合わせができ、ゴールにより近づきやすくなるのです。

しかし、相手の話を受け入れてしまうみなさんにとっては「感情を出す」と言われてもなかなかイメージしづらいのではないかと思います。

では、具体的にどのように感情を表現すればいいのでしょうか?

マイナスな感情を願いに変える

自分の要求を相手に伝えられない場合、「自分のマイナスな感情を相手に伝えることで相手を不快な思いにさせてしまうのではないか」「ただ伝えたところで困らせてしまうのではないか」という感情に囚われている可能性があります。

相手の言葉に自分がマイナスの感情を抱いたり、何かが足りないと感じた時には、不満をそのまま伝えるのではなくその先にある自分の願いに着目するようにしましょう。

マイナスな出来事・感情をプラスに捉え直し伝えましょう。

例として、私の実体験があります。

私は、キャリア支援団体でチームリーダーを務めているのですが、メンバーとの1on1をした時にメンバーに「今のチームの状況、結構なんでもいいんだよね」と言われてしまいました。

その言葉を受けて私は途方もない孤独感と寂しさ、なんで考えてくれないんだという怒りを覚えました。

そう思ってしまったことは感情なので仕方ありません。

しかし、重要なのはここで終わらせるわけでもなくそのまま伝えるのでもなく、このマイナスをその先にある願いに変えることです。

よく自分の感情に向き合ってみると、孤独感と寂しさの先には「みんなで一緒にチームを作り上げたい」という願いがありました。

当時の私はそのまま「そっか……。」と受け入れてしまいましたが、本来は「より良いチームにするためにみんなで力を合わせたい」と伝えればよかったのです。

マイナスな感情をそのまま伝えるとマイナスの連鎖が起こってしまいますが、このような自分の理想に対しての相手の感情や意見は、きっとゴールに向かう道筋になっているはずです。

S(Specify)=提案する / C(Consequences)=結果を伝える

相手の話を聴き描写し、自分の感情を述べ、それに対する相手の話を聴く。このように、DとEを行き来することでより現状と理想がはっきりしてくると思います。

そうなって初めて、お互いの理想に向かうための提案を考えていきます。

また、その際には、解決された先には「助かる」「嬉しい」といった明るい未来(結果)があることも伝えることが大切です。

DESC法を実践するためには

先述した例を使って本来あるべきアサーティブコミュニケーションについて振り返ってみましょう。

Aさん「今のチーム状況、結構なんでもいいんだよね。」
(Dとして相手の話を共感を持って傾聴した上で)
私「そうなんだね。私はチームをみんなで作りたいと思ってる。より良いチームにするためにみんなで力を合わせて行きたいんだよね。」=E
Aさん「そっか。私も良いチームにはしたいと思う。だけど、別に今のままでも充分だし特に変えた方がいいことってないんじゃない?」
私「今のままでも問題ないと思ってるんだね。私はみんなの得意なことが生かされたらもっと楽しいかなと思ってるけど、どうかな?」=D・E
Aさん「そうだね。楽しいに越したことはないかも!現状に満足しててあまり意見出せなくてごめん。」
私「そうしたら、今のチームに悪いところがないなら、どんな企画があったらより楽しくなるかを自由に考えてみてくれない?」=S
私「Aさんの発想力すごいなって思ってたんだよね!私一人じゃできないこともあるからとても助かるな。」=C

※各発言の後ろのアルファベットが、DESCの各フェーズに対応します。

今回は少し話を端折っている部分もありますが、「楽しいチームにする」というお互いが納得する目的が見えてきて初めて、「企画を考えてもらう」という相手への要求・解決策を提案しています。

ここで出る解決策は、話の展開によっては元々自分が抱いていた相手への要求とは変わってくるかもしれません。

しかし、一方的に伝えるのでもなく、ただ受け入れるのでもなく、お互いで納得した上で一緒にwin-winの状態に持っていけるようにするのがアサーティブコミュニケーションの本質です。

また、先述した例のようにアサーティブコミュニケーションをすることで自分の要求の解像度が高くなり相手も行動に移しやすくなる場合もあります。

この4つのステップを通して、相手の話を聴くばかりでなかなか自分の意見が言えないという状況を克服し、自分と相手のより良い未来へ進んでいきましょう。

最後に

この記事を通して、以下の3つのことを学んできました。

  • 自分を尊重せずに相手を尊重し、相手に遠慮して言い出せない状態を克服するのが、相手と自分両者を尊重するアサーティブコミュニケーション
  • アサーティブコミュニケーションのためにはDESC法が有効
  • E(Express)=感情を表現するためにはマイナスな感情の先にある思いに目を向けて伝える

感情を言葉にするということは簡単なことではありません。しかし、必ず思っていることには自分の願いがあるはずです。相手の思い・願いに寄り添いつつ自分も伝えることで、両者にとっての最善な状態へ向かっていきましょう。

これから研修を受ける方々へ

1月の研修テーマは「アサーティブコミュニケーション」についてでした。

そして今回の記事では、自分をあまり表現できない人がより積極的になるための具体的な方法を紹介しました。

しかし、逆に相手に対して一方的で強引なコミュニケーションを取ってしまうAggressiveな状態もあります。

研修ではアサーティブコミュニケーションにおいて大切になってくる基本姿勢や考え方などもロールプレイを通して学ぶことができるので、自分自身のコミュニケーションのあり方について内省しながら受けることをオススメします。

研修で学んだこと

  • アサーティブコミュニケーションにおいて重要になる4つの柱は「誠実・素直・対等・自己責任」
  • アサーティブコミュニケーションの中では、言語だけでなく非言語メッセージも合わせて意識する

この記事の著者/編集者

河本のぞみ  早稲田大学 文化構想学部 

キャリア支援団体においてチームリーダーを務める。自分に足りないところに向き合いながら憧れの存在に近づくために日々試行錯誤している。
部活:バスケットボール部キャプテン(中学時代は公式戦で一度も勝てなかったほどの弱小校。)
サークル:バスケサークル幹事長(学外の大会で優勝経験があり)
家族構成:起業している母と修行している父。プロアメフト選手の兄。

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新着コメント

  • 久保井美愛

    2021年02月20日

    この記事を読んで『祈りの数だけ悲しみがある』という言葉を思い出しました。人の感情と欲求・願いは強く結びついています。
    マイナスの感情をそのまま伝えるのではなく「感情の先にある願いを表現する」というのは、私も意識的に心がけていきたいです。
    感情的になりそうな時ほど、クールダウンして自身の欲求を理解することの大切さを再認識できました。

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