引き継ぎから、誠実な組織文化を醸成する

4.誠実・謙虚であれ

周りの人たちに対して、損得ではなく誠実・謙虚に行動していきます。小さな約束もきちんと守り、信頼を積み重ねていきます。

はじめに

引き継ぎで後輩に何を伝えればいいのかわからない
引き継ぎの正解がわからない

 どんなに自分たちの代やチームが成果を出せたとしても、いざ引き継ぎとなると、何をどのように伝えていけばいいのかわからない。そんな悩みを抱えたことはありませんか。

 私はあります。何なら悩みを自覚せずに突き進み、失敗しかけたことすらあります。

 ですが、引き継ぎは組織の進化にとって不可欠なものです。自分たちで築き上げた成果は勿論、課題まで引き継ぐことで、次の代や引き継がれた人たちはその成果と残された課題を糧にさらに組織を進化させてくれるでしょう。一方で、引き継ぎがなかったら、組織の進化はリセットされるに等しいです。

 そこで、本記事では、組織における「引き継ぎ」において、重要なことについてお話しします。今までチームや組織を牽引してきたリーダーは勿論、メンバーも、「組織をより良くするために奮闘してきた全ての人」に贈る記事です。

引き継ぎの土台となるもの

 組織における引き継ぎで大切なことはなんでしょうか。

 前任者と後任者の信頼関係。綺麗で分かりやすい引き継ぎ資料。

 私はある時期までずっと、自分がいなくなっても組織に続く”仕組み”を作ることが引き継ぎの全てだと思っていました。それも勿論、重要なことです。ですが、自分は別のプロジェクトに移るけれど、プロジェクト自体は続いている。そんな場面であったら、仕組みを作ったり、分かりやすい引き継ぎ資料だけでいいのでしょうか。私は、それら以上に大切な土台があることを痛感した経験があります。

資料だけで引き継ぎができると思っていた時期

 私は大学2年の冬から1年間、ボランティア団体の学生代表として活動していました。その団体は、中高生の留学・国際交流事業を行っており、大学生ボランティアが最大100名ほど活動している組織でした。
 私の代は、コロナの流行により活動内容がコロナ前と変えざるを得なくなり、組織として新しい活動方法を模索する"難しい代"と言われていました。ですが、何とかコロナ禍でも活動の基盤を整え、大学2年の秋頃には次期代表候補としてAさんが立候補してくれました。またこの状況は、学年によって活動内容が異なる部分はありますが、広い目で見ると、学生代表として組織を導いていくプロジェクトは続いているけれど、学生代表という「人」が変わっていく場面でもありました。

怪しくなる引き継ぎの雲行き

 立候補してくれたAさんは、顔が広く、団体内での活動経験も多かったため、本人が立候補した意志を尊重し、私はAさんに引き継ぎ資料と来期を見据えて作った持続的な仕組みを渡せば問題ないと思っていました。
 しかし、Aさんを代表にすることを前提に行われた、副代表を決める話し合いが思った以上に難航し、ここから雲行きが怪しくなります。

 恵まれたことに副代表候補が多くいたというのもあるのですが、代表候補のAさんは誰を副代表にすれば良いのかの正しい意思決定出来なかったのです。
 Aさんは、仲が良く話しやすい友人Bさんを副代表にしたいとしていましたが、普段からあまり活動に来ないBさんが経験的にも将来的にも副代表になることが不可能なのは、周囲からは分かりきったことでした。

 そんな組織にとって最適な意思決定が出来ない状況に危機感を抱き、私は初めて、次期幹部代の話し合いに入ることにしました。話し合いは難航し、そもそも代表とは何かという問いにまで話が及びました。ですが、何度も話し合いを重ねていくうちに、引き継ぎにおいて重要なのは、後任者との信頼関係でも、綺麗で分かりやすい引き継ぎ資料でもなく、一つ一つの意思決定の背景を伝えきることだと気づいたのです。

意思決定の背景を伝える

 例えば、私は代表として、コロナ禍で初となる対面の国際交流事業を開催しようとしていました。しかし、感染者増加等の社会情勢を踏まえ、急遽、オンラインでの開催方法へと変更する意思決定をしたことがあります。これは事実や結果としては、引き継ぎ資料を通して伝えていましたが、何を判断基準にその意思決定をし、その際に何を大切にしていたかは伝えていませんでした。

 コロナ禍で対面事業が行えず、対面事業のノウハウ継承が危機意識としてあり、団体の中には対面事業を求める声が多かったのは事実です。実際に、オンライン開催に変更するという意思決定に難色を示すメンバーもいました。しかし、組織としての在るべき姿を考えた際、ノウハウの継承を急ぐよりも、参加者が安心して参加できるトラブルのない事業を開催することの方が重要だと考えたこと。それを伝えるように意識しました。

誠実さを基準化する

作り出された代表の基準

 このように意思決定の背景を伝えていくと、次期幹部代は、代表とは「組織の在るべき姿を考え、意思決定ができる人がなるべきだ」という答えを自分たちで出してくれました。そして、彼らなりに代表を選ぶために以下の3つの基準を作り、話し合いを重ねてくれました。

  • 誰よりも組織をより良くしたいと常に思っていること
  • 組織の在るべき姿を実現するための中長期的な意思決定ができること
  • 驕らず、自分の弱さにも向き合い、組織のために自己を変えられること

 すると、Aさんは「今の自分にはそんな代表になれる力がないと思う。Cさんの方が、その役割は果たせると思う」と伝えてくれました。
 そして、Aさん、Bさん、Cさん、その他次期幹部代を含めた話し合いを再度行い、代表はCさんとなり、Aさんも納得した上で、今もなおAさんもCさんも自分の役割を全うし、その団体で活動してくれています。

誠実さを基準に変える

 そして、このように、組織の重要な意思決定を担う代表という存在に求められる基準は、組織における誠実さを示しているとも考えられます。

 A&PROでは、誠実さとは、在るべき姿に向かって努力する姿と定義づけています。その定義を踏まえると、組織における誠実さとは何かという共通認識を作り、求められる基準を明確に示すこと。それが、組織の持続的な進化を目指すにあたり、重要な土台であり、次世代と共創していけると理想的でしょう。

見えにくい部分にも目を向けた引き継ぎを

 結果的には良い結末になったように思えますが、私としてはこれは苦い経験になりました。引き継ぎの資料やその仕組みを作り、伝えるだけでは意味がありません。組織を在るべき姿に進化させていくためには、結果だけでなく、それに至る意思決定の背景や過程を丁寧に伝えることが重要だと痛感したのです。そして、それらの重要な意思決定を担う「人」の土台となる、求められる誠実さを基準化することも不可欠です。

最後に

 成果や過去の事実が分かりやすくまとまっている引き継ぎ資料。それも勿論、大切です。しかし、形としては見えにくい、その成果に至る過程や、意思決定の背景、そしてそれを支えてきた誠実な組織文化が実は引き継ぎの土台になっているのではないでしょうか。

 自分がいなくなっても、組織の在るべき姿を追求し続けられるような組織に。そんな誠実な組織づくりを、引き継ぎを通して実現していく人財。私もそんな人財になれるよう、日々自他に対して誠実に活動し続けたいと思います。

この記事の著者/編集者

本田花   

早稲田大学文化構想学部卒。大学3年時までは、中高生の留学支援団体であるAFS日本協会神奈川支部の学生代表として、コロナ禍の組織再生に奮闘。大学4年時には、日本最大のキャリア支援団体en-courage早稲田支部において、面談部署の責任者としてキャリア面談サービスの設計・研修体制の改善に挑戦。
上記の経験における多くの人や価値観との出会いを糧に、社会人としては、総合コンサルティングファームにて「他者に還元出来る知見や経験に溢れた利他的なコンサルタントになる」ことを志している。

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 上原久実

    2023年03月17日

    本田さんの記事を拝読して、引き継ぎのみならず、これらは普段のコミュニケーションやMTGにも通ずる話だと感じました。
    意図を伝えることで地盤が変わることなく、元々のプランをさらに活性化させられる可能性もあるのだということを感じました。
    自分の立場・タスクにおける責任を忘れることなく、何度もあるべき姿に立ち返り業務を進めていくべきだと感じました。

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