体系的以上に実践的に学ぶアサーティブコミュニケーション

11月の研修:アサーティブコミュニケーション

はじめに

本記事はアサーティブコミュニケーションの基礎を一通り学んだことがある人向けの記事です。リアルな体験談からアサーティブコミュニケーションの実践的な活用方法や重要性をお伝えします。まだ基礎をご理解されていない方は一度体系的に学んだ後にご覧になると、より有意義な学びを得られると思います。

アサーティブコミュニケーションを使いこなせますか?

近年話題になったアサーティブコミュニケーション

アサーティブコミュニケーションとは相手のありのままを侵害せずに、誠実・率直・対等な立場で、自分の気持や意見を分かりやすく伝えることです。アサーティブコミュニケーションを有効活用することで、良好な人間関係を生み出し、健全に働く方を増やすこと、生産性を上げることなどのメリットを得ることが出来ます。現在、多くの企業でアサーティブコミュニケーションに関する研修が行われています。また、ポイントであるDESC法やコミュニケーションのタイプ(攻撃型、受け身型等)が多くの記事で解説されています。

「理解すること」と「出来ること」は違うということ

では、あなたはアサーティブコミュニケーションを使いこなせますか?

本研修でアサーティブコミュニケーションを学んだ私は、自身の実践力不足を体感しました。多少理解していた部分はありましたが、全くと言ってよいほど使いこなせていませんでした。

「出来る」ために必要な学習を分析する

外部サイトで解説されているようなDESC法やコミュニケーションのタイプ(攻撃型、受け身型等)を正しく理解することはもちろん大切です。ですが、体系的に理解しただけでは自分のものにするのは難しいでしょう。アサーティブコミュニケーションの中でも自身の苦手分野を理解したり、自分なりに大切だと思う理由を言語化したりしてみるなど、戦略的な学習が大切だと思います。

本記事の狙い

”実践的な”本記事で得られること

本記事では、私自身がアサーティブコミュニケーションを使えば良かったと思った機会を振り返りたいと思います。よくあるポイントを抑えた記事とは大きく異なりますが、本記事を読む中で皆さんには以下のメリットがあると思います。

  1. アサーティブコミュニケーションに対する自身の理解度を知れる
    アサーティブコミュニケーションの4つのポイントやDESC法の一部を織り交ぜながら、自身の経験を分析しています。どのポイントを解説しているか予想を立ててみてください。そして、あなた自身が使いこなせる準備が出来ているか確認してみてください。
  2. アサーティブコミュニケーションが必要となる場面をより具体的に理解できる
    100人規模の団体で代表として活動した経験を具体例として活用します。実際の企業でも想定される失敗談だと考えられるため、皆さんの参考になるでしょう。どのようにしたら議論を成功に導けるかを考えながら御覧ください。

衝突を起こしたコミュニケーションの失敗経験

経験談の理解を深める前提共有

私はエンカレッジ早稲田支部で10期の代表を務めています。支部はユーザー獲得部署、採用部署などを始めとして9つの部署、110人程度のメンバーで形成されています。現在、様々な部署が協力し合うことで、3000人程度の早稲田生にキャリア支援サービスを展開することが出来ています。

現在は活動の終盤であり、組織は落ち着いてきましたが、その過程では何度も衝突がありました。衝突を繰り返すだけで、組織が改善されていない状況がありました。本記事では衝突が生じた2つのケースについてお話したいと思います。なぜ衝突が生じるのかを分析しながらご覧ください。

ケース① 責任範囲の違いが生み出す衝突

支部長とサービスの設計、品質管理部門の衝突

私達は就活を終えた大学4年生、院2年生が就活をこれから始める方に1人ずつメンターとして就き、面談やイベントを通して納得したキャリアを歩めるように支援しています。

ある時、支部長である私とサービス設計の部署責任者で衝突することがありました。早稲田生に届けているキャリア支援サービスに品質上の問題が生じたからです。

部署責任者の主張を簡単にまとめると、「適切なサービスを提供できる人財にしか、顧客と対話する機会を設けさせない」というものでした。サービスの信頼度を大切にした説得力のある主張だと考えます。

ただ、支部長を務めていた私はこの主張を受け入れることが出来ませんでした。詳しくお伝えすることは出来ませんが、部署責任者の施策を実行した場合に組織を支える多数のメンバーの離脱、他部署が目指す目標への悪影響、などが生じて、支部全体の目線で考えた際にデメリットが多くかつコストも高いと考えていたからです。

全体最適と部分最適の衝突

この問題を振り返ると、全体最適と部分最適の問題だと思います。支部の9つの部署や110人のメンバーや3000人のユーザーなど、全体を見据える支部長と、特にユーザーに提供するサービスの設計に熱を注ぐ部署責任者では、考えは当然異なります。どちらが良い悪いの話ではありません。考えの違いを理解せず、かつ有効活用せずに議論を進めたことに問題がありました。

責任範囲の違いを好機と捉える

特に、真の意味で対等な議論の場を創り上げるために事実や情報の伝達が不足していました。担当する分野や立場が異なれば、持ちうる情報も異なります。しかしながら、自分の考えや把握している事実は相手も知っているという思い込みから必要な情報量や発言の意図を伝えあわなかった結果、衝突を繰り返してしまいました。話を擦り合わせると互いに気付かなかった観点や現状を知ることが出来ました。責任範囲や立場の違いを有効活用すると、必要な判断材料が揃い、1人で行うよりも合理的な解決を実現出来ると思います。

態度や心の中だけでなく、情報も対等に

アサーティブコミュニケーションでは立場や実績などに影響されず態度や心の中でも対等であることが重要視されていますが、合理的な決断をする上で必要な判断材料や情報の量を対等にすることも大変重要です。皆さんも他者と意見が擦れ違った時こそ、相手と自分の情報量の違いを理解し、必要な事柄を伝えきれているか、もしくは必要な情報を持ち合わせた方が揃って議論が出来ているか、を確認してみてください。

ケース② 仕事を依頼された側の”後回し”問題

私は支部長を務める中、多くの重要プロジェクトを幹部や中核メンバーに託してきましたが、想定通りに進まなかったことがありました。その中で、当人の中で大切だと思う仕事を優先されて、私が依頼した仕事を後回しにされたこともあります。そして、当人になぜ取り組まなかったかを問い詰めると、大抵の場合、「そんなに重要ならば先に言ってくださいよ。」と伝えられました。

私にとって非常に重要な事柄ですが、メンバーには伝わっていなかった、この「後回し問題」はどのように回避すべきだったのでしょうか。

2つの感情を整える必要性

アサーティブコミュニケーションでは、描写された事実などに対して相手を尊重しながら、自己の感情を伝えることが重要だとされています。自他の気持ちや感情に誠実に向き合うことは非常に大切です。必ずしも相手の気持ちや要求を受け入れる必要はありませんが、尊重して聞き入れることで相手と建設的な関係性を築くことが出来ます。

先述した「後回し問題」を振り返ると、2つの感情に向き合う必要があると私は感じました。

A)私と相手の関係性を整える

皆さんと活動を共にする方の中には、良好な関係性を築けている方だけでなく、過去に不誠実な対応をしてしまい、気まずい関係性のままの方もいるのではないでしょうか。

関係性を改善する前にそのような方と対話をすることは非常に危険です。相手への気まずさから自分の主張や気持ちを抑え込んだ対話や、仕返しなどを狙った権威的な対話が生まれてしまい、建設的な議論がなされないからです。

本来好き嫌いなどで仕事への向き合い方を変えるべきではないと思います。しかし、誰と仕事ができるかは仕事を行う上でのモチベーションにもなることは確かでしょう。

自他の気持ちを伝えあい、建設的な議論が出来る準備を

実際に私は相手に対して不誠実なことをしてしまった、かつそれを謝れていない状態で本人と仕事をした際に凄く窮屈な感覚を覚えました。相手の反応1つ1つが気になってしまい、仕事に集中できなくなったこともあります。

まずは互いの気持ちを伝えあい、建設的な関係性を築くことに力をいれましょう。「過去に〇〇してしまったことを私は申し訳なく思っている」、「〇〇さんが怒っているのではないかと、私は不安を感じていた」などと自分の感情を相手に伝えてみてはいかがでしょうか

B)プロジェクトメンバーとプロジェクトの関係性を整える

先程は人と人の関係性に関してですが、今度は人と物の関係性についてです。重要な役割を依頼する際に、皆さんはその重要性と任せる理由や期待を伝えると思います。Iメッセージを活用して、あなた自身の思いを伝えると有効でしょう。

託された側への動機付けを大切に

一方でそれだけでは不足している可能性があります。依頼された側が重要性を理解しているか、プロジェクトにモチベーションを感じるか、が不明瞭だからです。いくら頼まれたとしても、当人にやる気がなければプロジェクトはあまり前進しないでしょう。先程の実例も重要度は理解しているものの、本人にとっての優先度が高くなかったケースだと思います。あなた自身の気持ちを伝えながらも、実際に取り組む本人に対する動機付けが出来ているか、確認してみてはいかがでしょうか。

過去から学び、今に活かせるリーダーへ

過去の失敗談を言語化し、弱点に気付く

他にも失敗談はありますが、2つのケースを振り返ることで私は、私が抱えるコミュニケーション上の2つの弱点があったことに気付きました。

1つ目は相手への思い込みが激しいことです。相手が理解してそうだから、相手は優秀だから、といって事実の描写を適切に行わないことがあります。また、〇〇という役割だから〇〇すべきと、自分自身の基準が正しいと思い込み、押し付けてしまうことがあります。

2つ目は相手に一歩踏み込んだコミュニケーションは苦手であることです。相手に断られることを恐れて、相手の気持ちに向き合うことを避けたこともあります。これらの弱点は現在は改善に向かっているように思えますが、このように自身の経験を分析することで明確に気付くことが出来ました。

コミュニケーションを体系的に学び、戦略的に実践する

アサーティブコミュニケーションを体系的に学んだとしても、それを使うことが出来るかは全く別の話です。ただ実践を重ねるのではなく、あなたに合った練習方法が必要でしょう。

自身の苦手分野に特化して実践したり、自分なりに大切だと思う理由を言語化したりしてみるなど、戦略的な学習が大切だと思います。定量化した指標がなく上達度合いが不明瞭なコミュニケーションだからこそ、より強い目的意識を持ち、実践することが重要です。

最後に

本記事で織り交ぜたアサーティブコミュニケーションのポイント

本記事では私の過去の経験談を、アサーティブコミュニケーションやDESC法のポイントを織り交ぜながら伝えました。ケース①ではDESC法の”D”(=Dscribe)である”事実の描写”や、4つのポイントの1つである”対等”、ケース②ではDESC法の”E”(=Express)である”感情の表現”や、4つのポイントの1つである”誠実”、などを記載しています。

皆さんはお気付きになることが出来たでしょうか?

コミュニケーションを学ぶことの面白さ

本記事を執筆する中で、アサーティブコミュニケーションが、なぜ重要なのか、いつ使えるのか、をより深く理解することが出来ました。また、コミュニケーションの在り方から組織状態や自身の性格を分析することも出来、想像以上の学びを得ることが出来ました

そして改めて考えることとして、「理解すること」と「出来ること」は違うということです。みなさんも私のように過去の経験を振り返ると、使いこなせていないと感じる場面も多いのではないでしょうか。

コミュニケーションの学び方に正解はないと思います。皆さんなりに楽しく充実した学習環境を創り上げることが1番の近道だと思います。私にとって過去の経験を分析してみることが手法の1つだったように、皆さんがアサーティブコミュニケーションを身に着けられるように楽しく努力できる方法が見つかることを祈っています。そして、アサーティブコミュニケーションを使いこなし、自他に誠実であれるようになることを祈っています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

また、今回の研修で学んだことも記載しておきます。是非ご覧ください。

研修で学んだこと

  • 自身のコミュニケーションにおける弱み(相手への思い込みと相手に一歩踏み込んだコミュニケーション)
  • アサーティブコミュニケーションとは相手のありのままを侵害せずに、誠実・率直・対等な立場で、自分の気持や意見を分かりやすく伝えること
  • コミュニケーションを体系的に学び、戦略的に実践することの重要性

この記事の著者/編集者

須賀渉大   

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。大学3年時までは海外インターンシップ事業の運営、国内外ボランティア、教育系の長期インターンなど様々な活動に尽力。大学4年時には日本最大のキャリア支援団体の早稲田支部長として100人を超える仲間と、事業・組織共に持続的な成長を遂げる団体の基盤創りに挑戦。ボランティアで深刻な社会課題を目の当たりにした経験から「日本を課題解決先進国にしたい」と考えている。社会人では金融とデジタルの分野で専門性を磨き、将来は社会的価値と企業的価値を両立した事業、組織創りに携わり、社会問題の解決及び日本の変革への貢献を志す。

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新着コメント

  • 大庭彩

    2023年08月17日

    アサーティブコミュニケーションは、想像以上に使いこなすのが難しく、私も同じような経験があります。

    ・「理解すること」と「出来ること」は違う
    ・責任範囲の違いを好機と捉える
    ・態度や心の中だけでなく、情報も対等に

    ここは、特に肝に銘じておく必要があるなと勉強になりました。

    「相手が主張している時」、「自分が主張したい時」は
    一呼吸おいて、このPOINTを思い出し実践したいと思います *

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