記憶は能力の問題ではない

今月の研修:記憶のメカニズム

自分の部下やメンバーが伝えたことを覚えていない、何度も繰り返し教える必要がある、こんな経験はありませんか?これらは相手の記憶力の問題ではなく、話し手が記憶のメカニズムを知らないことから起きる現象です。裏を返せばメカニズムを知れば、話し手の工夫一つで記憶の定着を狙うことができます。

記憶の定着=インパクト×継続

記憶の定着には出来事のインパクトの大きさとどれだけ記憶を継続させる機会があるかという事です。言い換えれば、【出来事の覚えやすさと思い出す回数】という2つの要素があり、この2つは反比例の関係性だと考えられます。初めの記憶が十分に印象に残っていればその分、何度も思い出さずとも記憶は定着します。その一方で始めに印象が不明瞭だと何度も何度も同じ事を繰り返す必要があります。

初めのインパクトが強ければ強いほど反復は少なくて済む。

つまり、インパクトの大きさで短期的な記憶を確立し、継続し活用することで長期的な保管および定着に繋がるという事です。

インパクト

出来事の覚えやすくするためには、エピソードと結びつけることが重要です。もう少し具体的に言えば、出来事をただ情報として捉えるのではなく、感情を伴うエピソードと結びつけることで印象付けられます。

例えば理科の勉強、特に化学の分野をイメージしてください。単に座学で勉強したときより実験した時の驚きや関心を伴った学習の方が思い出しやすいのではないでしょうか?他にも国語の時間、和歌を覚えるのに競技として百人一首をしたりと、身近に色々な経験と紐付いた学習がありました。

継続

記憶の長期的な定着を図るためには、どれだけその学びを活用する機会を設けるかが重要です。出来事を一度きりにしないことでより長期的な記憶の保管に繋がり、継続することで記憶は『当たり前』へと変容します。

例えば、初めて自転車に乗った時、初めてパソコンを使った時をイメージしてください。最初は説明書だったり、誰かの補助を受けながら試行錯誤し、徐々に記憶していきます。そして今となってはいちいち思い出すという事をせずに自然と自転車に乗り、パソコンを操作しているはずです。

メカニズムを活用した記憶法

上記の二つの要素を強める工夫をいくつかご紹介します。

  • 相手のエピソードを起点に話をすること
  • アウトプットを習慣化すること

『相手のエピソードを起点に話をすること』に関してはインパクトに関係します。自分に関係ない話や経験のない話より、実体験のある話を聞きやすくありませんか?自分の中のエピソードと結びつけることで、関連した記憶として脳に印象付けられます。

むやみに先取りせず、相手のペースに合わせて情報を開示、提供することが重要です。場合によってはあえて相手に失敗経験を積ませることも一つの手段でしょう。起点があればそこから、なければ先に作ることで記憶の短期的な記憶の定着を図れるでしょう。

アウトプットを習慣化すること』に関しては継続に関係します。学習内容をひたすら繰り返すのも一つの継続の手段ですがあまり効率的とは言えません。そこで学びを前提としたプロジェクト(アウトプットの場)を組むことで、学びが目的から手段へと変容します。覚えて終わりではなく、その活用をしてこそ『当たり前化』が進みます。

やることが多すぎて覚えきれない就活生に向けて

上記の工夫は私が就活生に対して行っている選考対策に活用されています。就活生は自己分析や企業分析、選考対策とやることがたくさんあり、一つ一つにかけられる時間も限られています。だからこそ一度の学びを忘れないことが重要です。

例えば、グループディスカッションや面接といった選考を例に挙げます。実際このような選考対策のノウハウは巷に多く出回っています。しかしそれをいきなり就活生に伝えたところで翌日に忘れてしまっているでしょう。

そこで私は常に一回選考を経験してみることを勧めています。グループディスカッションの経験がない就活生に対して、まず実際に参加してもらいます。もちろん多くの場合失敗しますが、その時の悔しさや恥ずかしさをベースにすることで、改善ポイントを伝えた時に「こうすれば良かったのか!」というリアクションを受けることが増えます。さらに、近いうちに次のグループディスカッションの場を設定し、アウトプットをする機会を設けることでサイクルを回すようにしています。

このように相手のグループディスカッションの失敗談を『起点』に学びを与え、その学びを活用する機会を『連続的』に設けることで実際に選考通過率の向上に繋がっています。

最後に

今回の内容はメンバーの育成だけでなく、自分自身にも応用できる内容でした。学生以上に社会人は覚えることの量、そしてそれを活用する機会が多いです。そのため今回のように記憶のメカニズムを学び記憶の定着を効果的、かつ効率的にすることで、成果の出せるビジネスパーソンになれるのではないでしょうか。

これから研修を受ける方へ

今回の研修は、リーダーとしてだけでなくいちビジネスパーソンとして役に立つ内容です。上司から頼られたい、早く成長したいと思う人にとって効率よく新たなことを吸収し、定着させる記憶のメカニズムを学ぶことは必要不可欠でしょう。

研修で学んだこと

  • 感覚記憶・短期記憶・長期記憶
  • 記憶のメカニズム
  • エビングハウスの忘却曲線
  • 意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶

この記事の著者/編集者

信宗碧 早稲田大学 文学部 美術史コース  リーダーズカレッジ リーダー 

就職活動を通して就職後のキャリアを楽しみにしている学生が少ないことに課題感を覚え、大学生に向けたキャリア支援を行うNPO法人『エンカレッジ』に加入。
納得したキャリア選択のためには視野を広げることや自分の中のバイアスに向き合うことが重要だと考え、学生に考えるきっかけを提供できる企業案件の担当するセクションのリーダーを務める。

現在10人規模のメンバーのマネジメントと支部のブランドイメージ構築に向け、活動しています。

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 中都智仁

    早稲田大学教育学部数学科 2021年11月01日

    「メンバーが記憶していないのはリーダーである自分に問題がある」という自責思考が信宗さんらしいです。他人を変えるのは難しいので自分を変えて伝え方に気をつけるという点が私には不足していると読んでいて思いました。ぜひ参考にさせていただきます。

  • 上野美叡

    2021年06月30日

    記憶術については、自分がいかに記憶できるかに活用する意識でしたが、相手に記憶させることに活用できるということが、まず発見でした。そして、相手のエピソードを起点にするとインパクトが強いということ、相手のペースで情報を開示すると効果的だということ、大きな学びでした。ぜひ活用していきたいと思います。

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