リーダーの”想定外”は思考停止
2022.06.19
今月の研修:責任・権限・義務と報連相から考える組織マネジメント
はじめに ”想定外”という厄介者
「想定外だったため、対応出来ませんでした」
このように”想定外”と言われると、やむを得ず仕方ないといった印象で押し切られ、何だかその場はうやむやになった経験。逆に自分がうやむやにした経験。みなさん、どちらかはあるのではないでしょうか。
しかしビジネスで仕事を依頼していた相手に、「”想定外”でやむを得ず、約束していた結果は全く出ていませんでした」と言われて納得は出来ないでしょう。また、自身が所属しているプロジェクトチームのリーダーが、「”想定外”だから」とばかり口にするリーダーでは何だか不安になりませんか?
このように”想定外”を当たり前として放置し、上手くいかなかった理由にすることは、クライアントには勿論、周囲のメンバーにも不安を与えるはずです。だからといって、全ての事象を”想定外”から”想定内”に変えることも難しいと思います。
そこで、この記事では、”想定外”に悩んだり、”想定外”という言葉を上手く使ったり使われたりして違和感を覚えたことがある人を対象にしています。
そしてそんな読者の方々に、リーダーとして”想定外”と上手く付き合っていく方法論をお届けしていきます。記事のポイントは以下の2点なので、ぜひ頭の隅に置きながら、読んでもらえればと思います。
- 周囲の不安因子になり得る”想定外”と、誠実に向き合える人になれれば、信頼されるリーダーに大きく近づけるのではないかという期待
- 自身が”想定外”に悩んだ経験と、そこにいた仲間とのコミュニケーションの在り方
事例から学ぶ ”想定外”を乗り越える仕組み
ここからは、実際の事例を通して、”想定外”を乗り越える方法論を紹介していきたいと思います。事例は、私が所属していた、大学生が活動するボランティア団体の例を扱います。前提知識を記載するので、「自分だったら”想定外”を乗り越えるために、どんな仕組みがあったら安心して活動できるか」を自由に考えながら読んでいただければと思います。
【組織の前提知識】
- 活動人数(大学生ボランティア):100~150名
- 活動内容:世界の中高生の留学支援。
- 日本に来日している留学生、これから留学する日本人中高生に、留学前後のオリエンテーションや国際交流事業を企画・運営。
- 組織構成:通年で活動する学生代表が1年任期で活動
- その代表の下に各事業(任期は3~6か月)の責任者がメンバーを束ねる。
- 時期:2021年度
- コロナ禍から1年ほど経ち、オンライン事業が主流になってきた段階
【組織の”想定外”】
コロナ禍で全事業の起点となる「留学がいつ行われるかわからない」「先が読めない」
- 例:コロナ禍で留学生が来日出来ないという話だったが、急遽、来日出来ることに
- 普段なら準備に3か月かかる事業を、1か月で準備しなくてはならなくなる。また、留学生が来日出来ないという事業方針だったため、年間事業計画は機能しなくなった。
このような、コロナ禍ならではの”想定外”に悩まされた組織でした。しかし、この組織はコロナ禍で何度も”想定外”を乗り越え、今もなおコロナ禍で事業を展開し続けています。では、どのように上記の”想定外”を乗り越えたのでしょうか。
【”想定外”を乗り越える仕組み】
”想定外”を乗り越えるための具体策の一つが、学生代表選挙の実施でした。”想定外”と本気で向き合うリーダーを全員で選挙で信任するのです。ですが、これは単に選挙を行うだけでは意味がありません。
まず選挙当日には、代表立候補者は2か月かけて作成した「所信表明」を全員の前で演説します。この所信表明には
- 代表としてどのように組織を支えていくべきか
- 代表として組織や周囲に求めることは何か
- 立候補者が考える具体的な代表の仕事とは何か
の3要素が必ず組み込まれていました。そしてこれが、”想定外”を乗り越えるための準備となります。2か月かけて考え、代表として1年間徹底していく覚悟として作ったこの3点への意志は、”想定外”な事象にもぶれない軸として機能するのです。
しかし、これはこの例でしか機能しないのではないかと思う方もいるでしょう。そこで、これらを一般化すると、「責任・権限・義務」の3要素として説明出来ます。
- 【責任】代表としてどのように組織を支えていくべきか
- 【権限】代表として組織や周囲に求めることは何か
- 【義務】立候補者が考える代表の仕事とは何か
具体的には、「1. 責任」は、果たすべきミッションです。自身が何を目指し、何に向かって誠実に行動すべきかの大きな指針になります。自分が受け持った仕事に対して、先々まで想定し、”想定外”に対しても対応できる状態であること自体が責任を果たせる状態であり、責任を吟味することは”想定外”と向き合うことこのものに繋がるのです。
次に「2. 権限」は、責任を果たすために必要な武器とイメージするとわかりやすいと思います。例えば、「個々の強みを生かす組織を作ること」を責任とした際に、「人事権」という武器がなければその責任を果たすことはできないでしょう。責任に対して必要な武器である権限を揃え集めておくことが、最終的には”想定外”に対処する時の武器にもなるはずです。
最後に、「3. 義務 」は、権限を持ったからには欠かせない武器のメンテナンスというイメージで考えてみていただきたいです。先ほどの例で考えると、「人事権」という武器を持っていても、人事異動をしたメンバーのアフターフォローや評価、モチベートというメンテナンスをしなければ、いずれ「人事権」という武器は錆びれたものになってしまいます。武器に対してメンテナンスを徹底し、責任を果たす材料を揃えきることで初めて、”想定外”を乗り越える準備をした状態になれるでしょう。また、この義務を自ら積極的に設計し守ることが、リーダーとしての信頼・権限の獲得に寄与します。義務を自ら積極的に果たし、周囲が権限を渡したくなるような振る舞いで、責任を果たすための武器を集めていく姿勢が大切です。
このように、「責任・権限・義務」に向き合い、それらを徹底すること環境や仕組みを作ることこそが、”想定外”を乗り越えるための準備になるのです。
チームで”想定外”を乗り越えるには
先ほどの選挙の例では、「責任・権限・義務」を徹底し、”想定外”を乗り越える仕組みについて扱いました。しかし、リーダーだけが”想定外”と孤独に奮闘することには限界があります。そこでここからは、チームとしていかに”想定外”を乗り越えるかについてお話しします。
またここで既述の選挙の例を引用すると、実は選挙は、代表が考える「責任・権限・義務」を所信表明演説で宣言して終わりではありませんでした。演説後には、全活動員が参加する「質疑応答」の時間があります。この質疑応答では
- コロナ禍で、留学生の来日が急遽停止した場合の対応方針
- 先が読めない状況でどのように年間計画を設計するか
- 事業の対面・オンライン開催の判断基準
など、その選挙に参加したメンバー一人ひとりが当事者意識を持って、質疑応答を通して組織の”想定外”を代表と共に向き合います。
具体的には、「代表が考える”想定外”」を尋ねる質問からは、代表が考える”想定外”がメンバーに共有され、組織として”想定外”から”想定内”の認識に変化します。また、代表が考え切れていなかった”想定外”に対する事象をメンバーが質問することによって、代表の”想定外”に対する視野も広がっていきます。このように、”想定外”とは何かを相談し共有する場は、組織として”想定外”を乗り越えるために不可欠なのです。
そして今までの内容を踏まえると、”想定外”を乗り越えるために必要なコミュニケーションの在り方も一般化して説明することができます。
- 報告:「所信表明演説・投票」
代表として「責任・権限・義務」の認識は正しいかの「決断」をメンバーとすり合わせる - 連絡:「所信表明演説」(本部に指示された今年度事業計画の共有など)
決断や判断を求めない、事実の共有 - 相談:「質疑応答」
組織としてどのように”想定外”に向き合うべきかの「判断」をメンバーとすり合わせる
上記のように組織として大切な決断・判断の実行について「報連相」を起点に議論することは、メンバー一人ひとりが組織課題を我が事として捉え、自ら進んで取り組もうとする環境づくりの糧となります。そして、この「報連相」に関しては誰しも聞いたことがある言葉であると思いますが、以下のように目的を定義すると、他の事例にも多用できるのではないでしょうか。
- 報告:「決断」をメンバーとすり合わせる
- 連絡:決断や判断を求めない、事実の共有
- 相談:「判断」をメンバーとすり合わせる
このようにコミュニケーションの在り方に基準を作り、”想定外”に対していつでも対応出来るような状態に準備する。またチームでの準備であるからこそ、リスクヘッジが可能な段階で、組織や相手にとって必要なタイミングで正しい報連相をする。これらが、チームとして”想定外”を乗り越える一途となるのです。
最後に
今回の記事の内容を要約します。
- 責任を果たせる状態とは、自分の受け持った仕事に対し、先々を想定し、”想定外”に対応できる状態
- リーダーを起点に責任・権限・義務を明確にすることが、"想定外”を乗り越えるための土台となる
- 責任:果たすべきミッション
- 権限:責任を果たすために必要な武器
- 義務:武器のメンテナンス
- 報連相を徹底したコミュニケーションが、チームで”想定外”を乗り越える一途となる
- 報告:「決断」をメンバーとすり合わせる
- 連絡:決断や判断を求めない、事実の共有
- 相談:「判断」をメンバーとすり合わせる
- 注意:リスクヘッジが可能な、組織と相手にとって必要なタイミングでの正しい報連相に
- 誠実なリーダーは”想定外”に思考停止しない。"想定外"に向き合うための準備を徹底している。
準備ができている人がリーダーになると考えているA&PROでは、”想定外”を乗り越える、という今回のテーマに終始せず、仲間とともに研修を通じてリーダーに求められる素養を学び、記事執筆を通じて学びを言語化しています。リーダーになる覚悟のある方の参加をお待ちしております。
研修で学んだこと
- 想定外に対応できる状態が責任を全う出来る状態
- 責任・権限・義務の定義
- 義務を自ら設計し積極的に果たすことが信頼構築に繋がる
- 報連相が組織として決断・判断を実行するための起点となる
- 報連相は組織と相手のタイミングで、自分本位であってはならない
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新着コメント
早稲田大学 2022年09月21日
報告:「所信表明演説・投票」
代表として「責任・権限・義務」の認識は正しいかの「決断」をメンバーとすり合わせる
連絡:「所信表明演説」(本部に指示された今年度事業計画の共有など)
決断や判断を求めない、事実の共有
相談:「質疑応答」
組織としてどのように”想定外”に向き合うべきかの「判断」をメンバーとすり合わせる
自身の活動にこの考えを落とし込んだときに、決断のすりあわせに当たる報告の部分が欠落していたと感じました。なるべく、連絡:事実の共有と、相談:判断のすりあわせを意識していたのですが、そもそも「どこの」「だれに」「どんな」権限があるかを知らずに連絡・相談をされても、相手は困るだけです。このことに気付いていなかったから、話は聞くし連絡もするが、肝心な決断や行動につながらない中途半端な人になっていたな、と思いました。報告と連絡を峻別し、誰に責任があるのか、権限は何か、義務は何であるかをきちんと伝えることで、決断につながるリーダーを目指します。