他者のありのままを尊重し、心理的安全性を確立する

はじめに

11月の研修:アサーティブコミュニケーション

 相手との関係性を気にするあまり、懸念点や問題点を率直に伝えることが出来ない

 相手の課題や問題点を指摘する際に、感情的になってしまい、相手の意見を否定しすぎてしまう

 このように、本来は互いを尊重しながら建設的にコミュニケーションしたいという想いはありながらも、上手くいかなかった経験はありませんか?

 私はどちらもあります、相手に嫌われるのが怖く、相手にとって耳の痛いことを伝えきれずにもどかしい思いをしたことも、感情的になり過ぎてしまい相手を必要以上に傷つけてしまい後悔したこともあります。

 そこでこの記事では、自身の失敗談も交えながら、組織において「互いを尊重した建設的なコミュニケーション」を実現する方法についてお話しします。

 リーダー・メンバーなどの立場に関わらず、組織におけるコミュニケーションに悩んだことがある人、コミュニケーションを大切にしている人に読んでいただきたい記事です。

同調を脱し、共創を実現するコミュニケーションへ

心理的安全性の誤解

 ここからはまず、相手との関係性を気にするあまり、懸念点や問題点を率直に伝えることができない場面を想定し、在るべきコミュニケーションについて考察していきます。 

 それに関連して突然ですが、皆さんは「心理的安全性」という言葉を知っていますか。

 心理的安全性というと、なんだか組織における心地良さであったり、自身の意見が否定されない安心感のようなものをイメージされる方もいらっしゃると思います。

 しかし、実際は全く異なる意味です。意味を誤解されることも多いのですが、本来は、「率直に発言したり、懸念や疑問、アイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを人々が安心して取れる環境」と定義されています。

 そして、この定義を踏まえると、相手との関係性を気にして懸念点を伝えられない人は、心理的安全性がある組織であったら、少しずつでも伝えるべきことを伝えられるようになるのではないかと、期待も出来るのではないでしょうか。

 そこで、心理的安全性という言葉を糸口に、率直にかつ建設的なコミュニケーションはいかにして実現されるかをここからは考えていきます。

組織における心理的安全性

 ここからは、私がキャリア支援団体であるen-courage早稲田支部において、自身が責任者を務める部署の経験を紹介します。

 心理的安全性がなかったときと、心理的安全性があるときの状態を比較し、その変化も含めて考察していこうと思います。

心理的安全性がなかったとき

 部署のメンバーから私に対しても、私からメンバーに対しても耳の痛いことや率直な意見が言えない状態でした。

 例えば、私からメンバーに意見を求めても、「本田(筆者)が思っていることと違う意見だったら申し訳ないから、自分は発言しなくて良い」「本田は色々考えているし、いつも正しいことを言っているはずだから本田が決めてくれ」とメンバーから言われてしまった経験があります。

 メンバーとしては気を遣ってくれているつもりだったのかもしれません。しかし、責任者である立場からすると、この状況では互いに意見を交換し合うことが出来ずに、かなりやりづらさを感じていました。

 対して私も、メンバーのミスや認識の誤りを指摘すべきだと思っても、「指摘することによってメンバーから嫌われたり、モチベーションが下がってしまったらどうしよう」と考えてしまい、曖昧な指摘に終始してしまってました。

 すると、メンバーは「本田は遠慮していて、私たちがミスしても言わないし、いつも抱え込ませてしまって申し訳ない」と言うようになってしまい、率直で建設的なコミュニケーションを実現するには程遠い状態でした。

心理的安全性があるとき

 自分は指摘しなくても良いという結論に互いに陥ってしまっている、心理的安全性のない状況に危機感を抱いた私は、その理由を考えてみることにしました。

 まず、上記のメンバーの発言の背景を考えてみると、「違う意見であることは良くないことだ」「リーダーの考えはいつも正しい」という固定観念があったのではないかと考え始めました。また私自身も、「指摘は良くないもので、メンバーのモチベーションを奪うもの」という根拠のない価値観を持っていました。

 このように考えると、心理的安全性がない状態には、対人関係のリスクへの懸念などからくる”思い込み”が根底にあったことに気づいたのです。

 この”思い込み”の怖さに気づいてからは、不必要な”思い込み”を「枕詞(クッション言葉)」として伝えるようにしました。例えば…

  • 意見が違うからこそ、生まれる価値があるって思っているから聞きたいのだけど…
  • 私がいつも正しいとは限らないから、みんなの率直な意見が欲しいのだけど…
  • あなたを否定したいのではなくて、より良い方向を模索したいという意味での指摘になるんだけど…

 といった形で、「この”思い込み”は持たなくていいんだ」というメッセージを伝え続けました。すると段々と、対人関係のリスクを恐れずに、率直で建設的なコミュニケーションがとられるようになり、組織内でも「本田の部署は、率直で活発なコミュニケーションが良いよね」と言われるようになったのです。

案外、”思い込み”であることが多い

 既述の経験から、心理的安全性を妨げていた、対人関係のリスクをとることへの恐怖心は、案外、”思い込み”であることが多いのではないかと思っています。

  意見が異なることも、反対意見を述べることも、指摘をすることも…。相手に自身の意見を率直に伝えることが、必ずしも対人関係を悪化させることに直結する訳ではないでしょう。

 むしろ

対人関係のリスクを気にしすぎている”思い込み”を「枕詞」で積極的に取り除き、率直に対話できるように努めること。
見えない”思い込み”に「同調」するのではなく、率直な対話を「共創」していくこと

が大切なのではないでしょうか。

相手のありのままを尊重する

 ここまでは、”思い込み”を払拭し、率直な対話を実現する方法についてお話ししました。しかし、困難な状況や余裕がないときに、感情的になり過ぎて、「率直さ」が相手を否定する、鋭利なコミュニケーションになってしまう場合もあるのではないでしょうか。

 そこでここからは、怒り、不安、焦り、申し訳なさといった「感情」といかに付き合いながら、「互いを尊重した建設的なコミュニケーション」を実現するかについて考えていこうと思います。

自他の感情を大切にしたコミュニケーションへ

 感情的になったとき、皆さんはどのような状態になりますか。

 私は、自分の感情から目を背けてしまったり、逆に相手の感情を蔑ろにしてしまったり、と自他の感情を大切に出来なくなってしまったことがあります。

 きっと皆さんも形は違えど、自分や相手の感情を大切に出来なくなってしまうことがあるのではないでしょうか。

 そこで、互いの感情を尊重し、相手のありのまま(権利)を侵害せずに、誠実・率直・対等な立場で、自分の気持ちや意見をわかりやすく伝える、「アサーティブコミュニケーション」を紹介します。

 アサーティブコミュニケーションは、相手に批判されたとき、自分や相手が怒りを抑えられないときなど、感情的になってしまっているときに、特に力を発揮するコミュニケーションです。

 そして、アサーティブコミュニケーションには、いくつかのコツがあるのですが、ここでは「感情」との向き合い方に重点を置き、実体験を基にそのコツを紹介します。

アサーティブコミュニケーションが支えになった経験

 それは、先ほどのen-courageでの自部署で、心理的安全性が確立され始め、率直な対話が出来るようになった頃の出来事でした。自部署内で、かなり余裕をもって計画を立てていた重要プロジェクトが、実はかなりの遅れた進捗状況であり、進捗管理が出来ていなかったことが発覚したことがありました。

 このとき、重要プロジェクトのチームにはプロジェクトリーダーを立てていたので、信頼していたからこそ、「なぜこんな状況になってしまっているのか」という失望と、かなりの遅れを回収しないといけないという焦りや怒りなどといった様々な感情が入り混じり、私はプロジェクトリーダーにどうコミュニケーションをとればいいのか分からなくなってしまったのです。

 そんな途方に暮れているときに、研修で学んだアサーティブコミュニケーションが支えになりました。その時、感情的になり過ぎていた私を冷静にしてくれた学びは以下の3つです。

1. 自分の気持ちや感情を自覚し、本当の要求は何かを明確にすること

 怒りや焦り、不安など、自分のマイナスな感情が溢れてしまうと、自分の感情に戸惑ったり向き合い方が分からなくなってしまう瞬間があると思います。

 ですが、そんな時こそ、マイナスな感情と上手く付き合い切れていない自分の弱い部分をありのままで受け入れることが重要なのではないかと、考えるようになりました。

 そうすると段々と、マイナスな感情を悲観しすぎてしまう自分の傾向を自覚するようになり、「実は、そのマイナスな感情の根底には『本来はこうあってほしかった』という期待や自身の要求あったこと」に気が付けるようになったのです。

 マイナスな感情との向き合い方が分からない自分の弱さを認めて、自分の感情やその根底にある、自身の要求を明確にすることが重要なのではないかと思います。

2.相手の言葉を繰り返し確認する。そして気持ちを聴くこと(聞く・聴く・訊く)

 これは、自分の感情を先行させるのではなく、相手の言葉を聞き、目に見える顕在ニーズを聴き、目に見えない潜在ニーズまで訊くことで、相手の感情を理解することを意味します。

 例えば、上記の例では、感情的になっているときは、「こんな状況になっているのは、相手が自分や自部署に好意的ではないからだ」といった根拠のない憶測をしてしまっていました。ですが、相手の言葉を確認する中で、本当は「本田や部署に貢献したいけれど、メンバーのマネジメントが難しくどうすればいいのか分からずに困っていた」という相手の気持ちに気づくことが出来ました。

 つまり、相手の感情を理解しようと努める過程で、自分の感情ありきで相手の感情を決めつけてしまっていたり、相手の感情を尊重していなかった自分に気づくことが出来ていたのだと思いますし、その過程は大変重要だったと感じています。

3.相手に話すときの主語は、「私」にすること

 自分の感情を自覚し、相手の感情も理解出来ても、その先の解決策や提案を考えていくコミュニケーションにおいて、この「I(アイ)メッセージ」は大変重要だと感じています。

 気づかないうちにやってしまっていることがあるのですが、「組織」を主語にしたコミュニケーションをとって、いかにも正しいことを言っているように、自身の意見を押し通してしまう。これをしてしまうと、自他の感情を理解出来ていても、台無しになってしまいます。(いわゆる”正論を武器にしている”状態だと思います)

 「組織としてこうするべきだと思うんだよね」といった言い方ではなく、「私は~~という考えで、こうすべきだと思っているから…」と自身の価値観としてありのままの状態で対話することで、対等な関係性で自他の感情を尊重することが出来ます。

感情が揺さぶられたときこそ、自分のありのままの感情に立ち返り、「Iメッセージ」として対等に伝え続ける姿勢を大切にし続けること。

それが、相手のありのままの侵害せずに、「互いを尊重した建設的なコミュニケーション」を実現するために不可欠であるのです。

最後に

 最後に、「互いを尊重した建設的なコミュニケーション」を実現するために大切なことを以下にまとめます。

対人関係のリスクを気にしすぎている”思い込み”を「枕詞」で積極的に取り除き、率直に対話できるように努めること。
見えない”思い込み”に「同調」するのではなく、率直な対話を「共創」していくこと

感情が揺さぶられたときこそ、自分のありのままの感情に立ち返り、「Iメッセージ」として対等に伝え続ける姿勢を大切にし続けること。

 上記のことを大切に、相手のありのままを尊重しながら、心理的安全性を確立する。環境が変わっても、それを実現できるよう、日々、誠実さ・率直さ・フラットさを大切に、一人ひとりに向き合い続けたいと思います。

研修で学んだこと

  • アサーティブコミュニケーションでは相手のありのままを侵害せずに自他を大切にできる
  • 自身のコミュニケーションの傾向を知ることが大切(受動型、攻撃型に陥っていないか)
  • 自分の無意識的な「思い込み」を壊すこととDESC法の中で実践する重要性
  • 思い込みによってコミュニケーションの柔軟性がなくなる
  • アサーティブに相手を尊重する状態を常に準備しておくことが重要
  • 失敗することも、相手も傷つけることもあり得ることを知り、思い込みを払拭する

この記事の著者/編集者

本田花   

早稲田大学文化構想学部卒。大学3年時までは、中高生の留学支援団体であるAFS日本協会神奈川支部の学生代表として、コロナ禍の組織再生に奮闘。大学4年時には、日本最大のキャリア支援団体en-courage早稲田支部において、面談部署の責任者としてキャリア面談サービスの設計・研修体制の改善に挑戦。
上記の経験における多くの人や価値観との出会いを糧に、社会人としては、総合コンサルティングファームにて「他者に還元出来る知見や経験に溢れた利他的なコンサルタントになる」ことを志している。

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