記憶と忘却の分かれ目?記憶力のツボを辿った先にあるものとは

今月の研修:記憶のメカニズム

あなたにとって忘れられない出来事は何ですか?

何年経ってもずっと覚えていられるほど強い記憶を深掘りすることは、記憶のメカニズムを理解するうえでとても役に立ちます。古いのに鮮明に思い出せる出来事には、記憶力を高めるヒントが隠されているのです。

この記事では、記憶の糸を辿ることで人間が記憶する方法について考えていきます。ぜひご自身の過去を振り返りながら読み進めていってください。

今でも覚えている忘れられない記憶

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それでは早速、古い記憶から辿っていきましょう。

私が持つ一番最初の記憶は3歳の頃のものです。この時期の記憶はいくつかありますが、時系列が曖昧で実のところどの記憶が最も古いものなのか定かではありません。ですが、恐らく家を閉め出された時の記憶が最初だと思います。

当時1歳だった妹に遊びを邪魔されて怒ったところ、妹は火がついたように泣き出しました。その時父は機嫌が悪く、泣かせた原因である私は玄関先に放り出されたのです。3歳児にとって親や家は世界のすべてと言っても過言ではありません。その世界から弾かれたことがとにかく怖くて「ごめんなさい」、「開けて」と叫びながら大泣きしました。

*

少し時を進めて小学校1年生の頃を振り返ってみます。まだ入学して間もない頃。通学班での登校中、班長の女の子の提案でしりとりをした時のことをよく覚えています。

私の番が回って来た時の文字は「だ」。すぐに「大地」という言葉を思いつきました。ですが、それは5年生の副班長の名前でもあったので気恥ずかしくて言うのが憚られ、口を開けませんでした。周りも同じ「大地」を連想したらしく、いろいろとヒントをくれましたが、悩みに悩んでようやく出した言葉は「だんご」。

当時は人見知りが激しかったこともあり、「大地」と素直に言えなかったこと、班の全員から注目を集めたことがとても恥ずかしかったです。

*

時は過ぎて中学時代。クラスで一番仲の良かった友人は歌をよく口ずさむ子でした。私はその子の歌を聴くのが好きで、時には「歌って」とねだることもあったほどです。

そんなある晴れた日のこと。
「美愛は歌を歌わないの?」と聞かれました。私は音痴なので人前で歌うのを避けていたのですが、歌の上手い友人にそれを言うのは気が引けて、曖昧な言葉で濁しました。それに対して何気なく返された「歌うのが好きならいいと思うけどな」という言葉。上手い下手に関わらず、好きなら堂々と主張していいのだと励まされた気がして、小さく感動を覚えました。

記憶のメカニズムの正体

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これらは私が今まで生きてきた中で経験した古い記憶の一部です。干支が2周した程度の短い人生ですが、忘れられない出来事はたくさんありました。そして、それらの出来事には共通点があります。

それは感情が強く揺さぶられたということ。怖い、恥ずかしい、嬉しい……プラスにしろマイナスにしろ、感情が高ぶった時の記憶ほど長く鮮明に覚えているのです。ここに記憶のメカニズムを解き明かす鍵があります。記憶と感情は深く結びついているということです。このことは科学的にも証明されています。記憶力とは物覚えの善し悪しだけに関わらず、情動、つまりは感情の動きの大小にも関係しているのです。

あなたの中にも喜怒哀楽を伴った記憶がたくさんあるのではないでしょうか。

このことが分かると記憶する方法もおのずと見えてきます。よく「昔に比べて記憶力が落ちた」と言う方がいますが、それは加齢による衰えとは別に原因があるかもしれません。記憶の定着に必要な情動がなくなってきているのではないでしょうか。さまざまな経験を重ねていくうちに感情が動きにくくなるということは十分に考えられます。同じ体験をしても1度目と2度目では驚きや感動が薄くなるのと同じことです。

つまり、記憶の定着を図るには「慣れないこと」が重要だという見方もできるでしょう。記憶をつかさどる扁桃体は、感情が伴っているかどうかによって得た情報の質を判断しているといわれています。

自身の感情であれば、ちょっとした心がけや工夫次第で刺激することも可能です。そもそも慣れとは、ルーティンが原因で起こるもの。いつも同じ場所で、同じ人と、同じように過ごしているからこそ慣れてしまいます。とはいえ、習慣化するのが悪いというわけではありません。むしろ、習慣づけることによってプラスに働くことも多いです。そうではなく、同じ「だけ」なのが好ましくないのだと思います。

いつもは手に取らない本を読む、普段は通らない道から帰る、違うコミュニティの人と話してみる……。些細なことで良いのです。「同じ」から脱却することで日常の刺激になり、当たり前のことが新鮮に思えてくるでしょう。このように慣れをなくすことで、記憶したい内容と情動を結びつけやすくしたいですね。

これから研修を受ける方々へ

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今回の記事では「自分の記憶」を主軸にしましたが、実際の研修では「相手に記憶させる方法」をメインに考えていきます。もちろん自分の記憶力を高めることも大切ですが、言ったことや覚えてほしいことを他者に記憶してもらうのも同じくらい重要なことだからです。友人への言伝、部下への指導、子どもの教育など、さまざまな場面で記憶のメカニズムは活用できます。

そして、A&PROの研修は各自が実生活に応用できる形で進められているので、記憶のメカニズムについてもっと深く知りたい、身につけたいという方は、ぜひ研修に足を運んでみてください。

また、実際に研修を受けた受講生がそれぞれ記事を書いています。直接研修を受けた方が大きな価値を得られるのは言うまでもありませんが、多様な視点からしたためられた記事を読むだけでも学びが得られるでしょう。興味のある方は下記リンク先から記事をご覧ください。

関連:「記憶のメカニズム」記事一覧

研修で学んだこと

  • 感覚記憶、短期記憶、長期記憶
  • エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶
  • 海馬、扁桃体、大脳皮質の関係

この記事の著者/編集者

久保井美愛   

上智大学外国語学部卒。社会人として仕事に必要なノウハウや心構えを学ぶためにA&PROの研修に参加。大の読書家で、のべ5,000冊以上の本を読んできた本の虫。かつて「図書室の門番」という異名を付けられたことも(笑) 本から得た知識や自身のスキル・経験を活かして、皆さんに価値あるものをお届けします。

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