今に生きるプロジェクトマネジメント
2023.11.22
今月の研修:PJマネジメント(基礎1)
2020年4月。緊急事態宣言が発令され、徹底的な自粛が行われた第一波の時期。皆さんはどのように過ごされていましたか。
私は大学の授業がオンライン化し生活リズムを崩しながら、慣れないオンラインコミュニケーションに苦戦していました。ですが何より、12月から4か月間準備し続けていた、対面イベントのプロジェクトが水の泡となったことが最も悔しく、最も私の頭を悩ませていました。
実際、社会全体で考えても、多くの企業のプロジェクトや経済活動が停滞しましたし、大学生もサークルの”新歓プロジェクト”などが停止し、「サークルの存続危機問題」に悩まされた人も少なくないはずです。
しかし、このような状況を招くコロナ禍は、過去のものではなく現在も続いているものでしょう(2022年8月現在)。第一波ほどの、社会システムの変容と新たな問題の露呈はないかもしれませんが、生活のための経済活動を優先するか、命を守るために自粛するかという政治的課題がある限り、私たちは「不確実な時代」の中を生きていることになります。
だからこそ、本記事では、そんな「不確実な時代」の中で
時代の変化に翻弄されずに、現代に息衝くプロジェクトの在り方
についてお話ししたいと思います。プロジェクトマネジメントに関心がある方や、コロナ禍でプロジェクトが頓挫し悔しい想いをした方は勿論、コロナ禍の不確実性にストレスを感じている方にも、ぜひ読んでいただきたいです。
現代に求められるプロジェクト
プロジェクトとは
初めに、時代性に関わらず、プロジェクトとは何かについて共通認識を作りたいと思います。プロジェクトとはシンプルに表すと以下のように示せます。
プロジェクト=独自性×有期性
具体的には、独自性とは「今までにない新しいこと」、有期性とは「期限があること」です。つまり、”今までやったことがないことを計画・実行して期限までに終わらせること”がプロジェクトなのです。
とは言え、イメージがまだ湧かない方もいるでしょう。そんな方に、比較対象として考えてみていただきたいのが、定常業務です。そこで、プロジェクトと定常業務の違いを以下にまとめてみました。
プロジェクト | 定常業務 | |
期間 | 有期 | 期限がない |
目的 | 今までにない付加価値を生み出す | 既存の業務を支える |
使用する資源 | 共通して使うものもあるが、プロジェクトごとに異なる | 基本的に同じ資源を繰り返し使う |
このように比較すると、プロジェクトは、目的と資源に新規性がありながら、期限もある。新しさとも時間とも戦わなければならない。そんな曲者であるイメージが少しずつ湧いてきたのではないでしょうか。
現代におけるプロジェクトの難しさ
次に、先ほどのプロジェクトの定義を踏まえつつ、現代においてプロジェクトがいかに難しく、かつその難しさを乗り越えるために何が大切かについてお話ししたいと思います。
ではみなさん、突然ですが…
自分がイタリアンレストランの経営者になったと想定してみてください。
ここからは、コロナ禍で落ち込んだ飲食店を立て直すためのプロジェクトを考えてもらいます。
みなさんはどんなプロジェクトを考えますか。もちろん、正解はないのですが、思いつきそうなプロジェクトを羅列してみますので、自分が考えたものと近いものがあるか、ぜひ見つけてみてください。
- プロジェクト案①:テイクアウトサービス実施プロジェクト
- 独自性:テイクアウトサービスで新しいサービスを
- 有期性:期限は1か月
- プロジェクト案②:注文を自動化&機械化で人件費削減プロジェクト
- 独自性:今まで挑戦してこなかった注文の自動化で新たなサービスの在り方を
- 有期性:運用までで期限は3か月
- プロジェクト案③:席数を大幅に減らし、「三密回避」の新内装に変革プロジェクト
- 独自性:コロナ前にはなかった、新しい座席と内装に
- 有期性:座席だけは2週間、その他内装替えは2か月が期限
みなさんと考えたプロジェクトと近いものはあったでしょうか。上記3つは実際に行っていた飲食店も少なくないはずです。私がアルバイトをしているイタリアンレストランでも、コロナ禍で上記のようなプロジェクトが実行されていました。
しかし、ここで少しクリティカルシンキングもしてみましょう。これらのプロジェクトは以下の赤字のような失敗に陥る場合もあるのではないでしょうか。
- プロジェクト案①:テイクアウトサービス実施プロジェクト
- 状況:コロナ感染者が減少し、飲食店で食事をすることに対する人々の需要が高まっている
- 結果:テイクアウトサービスの需要は少なく、広告費や容器代などの費用を回収できない
- プロジェクト案②:注文を自動化&機械化で人件費削減プロジェクト
- 状況:百貨店にある店のため、お客様には高齢者や機械慣れしていない人が多い
- 結果:常連客を失い、大幅に客数は減少し、赤字になってしまう
- プロジェクト案③:席数を大幅に減らし、「三密回避」の新内装に変革プロジェクト
- 状況:コロナ感染者が減少し、来店数が大きく増加している
- 結果:新たな席数では来店客に対応できず、回転数が低下し、赤字になってしまう
このように失敗する場合を想定してみると、飲食店におけるプロジェクトがいかにコロナの状況や顧客のニーズに左右されているかを実感できるのではないでしょうか。つまり
プロジェクトの成功の鍵は、変化する「顧客のニーズ」をとらえ続けること
なのです。
不確実な状況でもプロジェクトを成功に導く
冒頭で、コロナ禍が始まった2020年に、自身が携わるはずだった対面のイベントプロジェクトが中止になったことをお話ししたと思います。実は、このプロジェクト中止を受け、その後0から別のプロジェクトを立ち上げていました。
そこでここからは、そんなコロナ禍で0からプロジェクトを立ち上げた際の経験を基に、実際に「顧客のニーズ」を起点に、プロジェクトをどのように成功に導くかについてお話ししたいと思います。
まず、前提として紹介するプロジェクトは、以下の概要・特徴でした。
- 概要
- 運営組織:中高生の留学・国際交流を支援するボランティア団体
- プロジェクト概要:オンラインの国際交流イベントの企画と開催
- イベント参加者(顧客):留学生(団体のプログラムで日本に留学)と日本人中高生
- プロジェクトメンバー:大学生ボランティア 15名
- 特徴
- 独自性:前例のない、オンラインでの国際交流の場を作る
- 有期性:留学が実施されてから2か月以内にイベント実施
これらの前提を見ると、今までの対面イベントの内容を、オンラインで実施すればいいのではないか。このように一見、「そこまで難しいプロジェクトではない」と思う方もいるでしょう。
しかし、団体本部の方針として、来日している留学生に必ずイベント参加してもらうという制約がありました。つまり参加者の人数も開催時期も、コロナ禍で”いつ実施されるかも分らない留学”に全てが左右されていました。
即ち、参加者という顧客が誰であり、どんな状況かも分からずに、留学できる日を願ってプロジェクトを進めていく。そんな不確実性とともにあるプロジェクトだったのです。
そして、このように始まる前から不確実な要素を抱えたプロジェクトの責任者を、誰も担おうとはしませんでした。その上、幹部代の人手不足により、経験が浅い一つ下の代に責任者の声をかけざるを得えませんでした。結局、当時の団体の代表から1週間かけて説得され、私がこのプロジェクトの責任者として、不確実性と向き合うこととなったのです。
しかし、通常時なら絶対にプロジェクト責任者になれないほど、団体内での経験がない当時の私は、どうすればいいのかわからず、不確実性の中でプロジェクト責任者としての責任を全うできないのではないかと不安でいっぱいでした。
そんな時、プロジェクトと私を救ってくれたのは、団体が一番大切にしていた組織文化でした。それは、「参加者第一」という文化です。
それは、「プロジェクトにおける決断と行動が、”顧客(参加者)のニーズ”に応えたものであるのか」という問いを大切にする文化でした。そんな問いを責任者や幹部だけでなく、メンバー一人ひとりが持ち、プロジェクトに関わる全員が参加者である顧客のことを第一に考えることが当たり前とされていたのです。
そしてこの顧客のニーズに常に立ち返る組織文化は、プロジェクトを立ち上げる際だけでなく、全ての過程で機能しました。それを示す前提として、プロジェクトは以下の重要な5つのプロセスから成り立っています。
- STEP1:目的・目標を設定する
- プロジェクトのニーズを理解する。「誰のため?何のためのプロジェクトなのか」
- STEP2:計画を策定する
- どのようにしてプロジェクトの目的・目標を達成するのか?方法・プロセスを策定し、計画に落とし込む。
- STEP3:実行する
- 計画に基づいて実行
- STEP4:測定する
- 計画と実績の差異を把握し見通しを立てる。成果・課題・リスクを監視し続ける。
- STEP5:分析し、計画を改善する
- 成果・課題・リスクを分析し、具体的な対策を練る。経験や学びを資産として残す。
では、この5つの段階の中で、最も顧客のニーズを意識する瞬間はいつでしょうか。
それは、プロジェクトのニーズを理解し、目的・目標を設定する最初の段階だと思います。
ですが、今回のプロジェクトのように、顧客のニーズが変化しやすい場合は、最初に立てた目標が機能しなくなる可能性も考えられます。
つまり、顧客のニーズは上記の5つの重要なプロセスの中で常に意識される必要があるのです。
- 「どのような方のニーズに応えるための計画なのか」 (STEP2)
- 「どんなニーズを想定して、実行すべきなのか」 (STEP3)
- 「ニーズを満たすために今できている成果、逆に課題やリスクはなにか」 (STEP4)
- 「ニーズに応えるための改善策は何か。また、引き続き顧客のニーズに応えるためにプロジェクトをどうように引き継ぐか。」 (STEP5)
このように、不確実性があるプロジェクトでも、各段階で顧客のニーズを主語にし続けることで、ニーズにズレが生じていた場合に、すぐに軌道修正をすることができました。
そしてこれらの顧客のニーズを大切にするプロジェクトメンバー一人ひとりの意識に支えられ、プロジェクトを立ち上げてから半年後。コロナ禍でどうにか日本に来てくれた留学生たちにオンラインイベントを無事、開催することができたのです。
その上、イベントに参加してくれたある一人の留学生が
「今(コロナ禍で)、日本来ない方が良いと思うことも沢山あった。部活ないし、だから友達作るの難しい。けど、日本来てよかった。今日は沢山友達できた。楽しかったからありがとう」
と、イベントの最後に、拙い日本語で一生懸命、伝えてくれました。それは、
「コロナ前の対面イベントは、日本での思い出を作るイベントだった。けれど今回のイベントでの”参加者第一”は、思い出よりも『コロナ禍でも日本に留学してきてくれたこと。そのこと自体を肯定してあげること』なのではないか」
と、プロジェクトメンバー全員で導きだした顧客のニーズに、プロジェクトが価値提供できたことを示す言葉だったのです。
最後に
世の中にはプロジェクトマネジメントに関する様々なフレームワークが存在します。実際に、本記事の基となっている、研修内でも、QFD(品質機能展開)と呼ばれる顧客のニーズをプロジェクトに翻訳するフレームワークなど、多くのフレームワークを学びました。(気になる方は、ぜひ研修にご参加ください)
ですが、プロジェクトの本質はフレームワークそのものではありません。
変わりゆく顧客のニーズに向き合い続けること
が、時代の変化に翻弄されずに、時代と共にあるプロジェクトを築くために不可欠なのです。
独りよがりにならずに顧客のニーズに向き合い続ける気概を持って、現代に付加価値を生み出せる人。そんな人なれるよう、私も顧客への眼差しを大切に、今後もプロジェクトに向き合っていきたいと思います。
研修で学んだこと
- プロジェクト:独自性×有期性
- プロジェクトにおける重要な5つのプロセス
- プロジェクトの始まりは不確実性が高い
・事前準備で不確実性を下げる
・まず仮説を立てて行動し、徐々に不確実性を小さくする
・バッファの大切さ - 課題ログで、課題を可視化
- ニーズ調査には準備が必須
- ニーズとサービス関係性(QFD)
ニーズを翻訳し、プロジェクトにニーズを落とし込む。ニーズを起点に、サービスのコンフリクトがないかを意識しながら進めることが重要。
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新着コメント
2023年11月22日
プロジェクトとは、
「変わりゆく顧客のニーズに向き合い続けること」。
この一言に尽きるなぁ…と改めて考えさせられました。
予測困難な時代の中で、仕事を選択し
豊かな社会生活を送り続けるために、とても重要な武器にもなる。
どの環境でも活かせるノウハウが詰まった
大変貴重な記事だと思いました。ありがとうございます *