部下をさらに高次元へ導くコーチング
2021.04.23
今月の研修:コーチング理論(基礎1)
初めに
皆さんはコーチングを日頃行っていますか?もっと厳密に言うと、相手にとって適切なコーチングを行えていますか?
形だけのコーチングは効果に繋がらなかったり、相手の成長を妨げたりすることになります。
これからご紹介する2つの理論を元に効果的なコーチングを考えていきましょう。
マズローの欲求5段階
人間の欲求には5つの段階があります。
上から
- 自己実現欲求
自分がなりたい姿、自分の理想へと邁進できる段階。自分軸が重要。 - 承認欲求
周囲から尊敬されたい。自分に自信を持ちたいという段階。他人からの評価や自己評価が重要。 - 社会的欲求
周囲から受け入れられたいという段階。帰属意識や身近なコミュニティが重要。 - 安全欲求
安心・安全な暮らしを求める段階。一般的には成熟すればなくなる。 - 生理的欲求
3大欲求に近い部分。最も根源的な部分ではあるが、現代社会においてここが満たされない状況は日本においてはほぼない。
となっています。
前提として申し上げますと、コーチングというのはそもそも下2層(安全欲求まで)の段階にいる人には適してません。なぜならコーチングの前提には相手方の成長欲求が必要だからです。『衣食足りて礼節を知る』という言葉がまさに適していますが、社会的欲求に達していない人に対しては、まずカウンセリングや物質的援助による心身のケアを優先しましょう。
マクレガーのXY理論
人のモチベーションは二つの傾向にわかれます。
- X理論
- 人は本来怠けたがる生き物で、放っておくと仕事をしない。
- Y理論
- 人は本来進んで働きたがる生き物で、進んで問題解決をする。
X理論は先述したマズローの欲求段階における下位2層、Y理論は上位3層に該当します。相手がそもそもどの層にいて、どのアプローチが適しているのか、コーチングをする相手に対しては考慮する必要があります。
理論的なコーチングの実践
理想とするリーダーの在り方
ところで皆さんはリーダーというのがどういった存在だと認識していますか?私はこの時点で2種類あると思います。
- チームのトップに立ち、メンバーを牽引していくリーダー
- チームの下支えのポジションになり、メンバーのマネジメントに注力するリーダー
近年は後者のリーダーシップが理想的だと考える人が多いですが、この2つのリーダーシップを組み合わせることが重要です。その際に必要になってくるのが、上記2つの理論を組み合わせたコーチングです。
4つのパターンから見る実践方法
ビジネスの現場において部下を持つリーダーの多くは部下に自走・自立してほしいと願っていると思います。しかし、その部下の方はその準備ができているのでしょうか?もっと具体的に言うと、相手の社会的欲求(帰属意識)満たせているでしょうか?
時には強制的に業務を割り振り、部下に経験や組織の中での居場所を提供することもリーダーの役割です。特に組織に入りたてのメンバーは成長欲求以前にその場における自分の存在意義を見出すことや成功体験を積むことの方が重要です。
そこで部下に自立してほしいと思うリーダーは部下のモチベーションの源泉を以下の4点を意識して探り出しましょう。
- 自分なりの目標や実現したい理想がある
- 責任ある立場や周囲からの賞賛を求めている
- 上司から信頼され、自分の役割を求めている
- とりあえず組織に所属している・不信感すら抱いている
『自分なりの目標や実現したい理想がある』部下というのは自己実現欲求の段階にあり、Y理論的なアプローチが適切です。彼らにとって必要なのは、賞賛や労いではなく理想を実現するための具体的な道のりとチャンスです。リーダーはあれこれ指示や、首を突っ込むことはせず、コーチとしての自分の役回りを意識しましょう。
『責任ある立場や周囲からの賞賛を求めている』部下というのは承認欲求の段階であり、Y理論的なアプローチが適切です。彼らにとって必要なのは自他ともに認める実績や賞賛です。与える目標はより具体であり、定量的で表せるものが良いでしょう。リーダーは彼らの連続のチャレンジの機会を提供し続けるだけでなく、目標に向かって主体的に取り組むように導くことが重要です。そして部下がさらに高次元の欲求段階に行けるようにサポートしましょう。
『上司から信頼され、自分の役割を求めている』部下というのは社会的欲求の段階であり、Y理論的なアプローチが適切です。彼らにとって必要なのは自己実現や承認欲求ではなく、組織の中に自分のやるべきことがあるという実感です。リーダーは彼ら自身が意味があると感じられる業務を見極め、任せましょう。そして部下の目的・目標とモチベーションを結びつけることで、自立・自走に繋がります。
『とりあえず組織に所属している・不信感すら抱いている』部下というのは、安全欲求の段階であり、X理論的なアプローチが適切です。彼らにとって必要なのは、仕事に対する成功体験ややりがい、組織に対するスタンスの変化です。リーダーは彼らに半ば強制的にも業務経験を積ませ、成長欲求を持つまで伴走しましょう。この段階の部下にコーチングを行うと、上司の空回りや関係構築の弊害になりかねません。
実際にあったケース
それでは実際に私がリーダーとメンバーの両方の立場から経験した失敗談、成功談の2つを述べていこうと思います。
ケース①【メンバー(自分)が社会的欲求⇒安全欲求、リーダーはX理論】
これは実際に自分が飲食店でアルバイトをしていた時のケースです。仕事にも慣れ、職場内での信頼関係も構築され、自分の社会的欲求は満たされている状態でした。しかし、新しく来た社員はメンバーを監視し、自分が求めていない業務を強制的に教え込む方でした。
当時の私は一人暮らしを見据えて数ヶ月後には辞める予定でした。このように社会的欲求段階で満足している自分に対してX理論的なアプローチ続けた結果、私の仕事に対するモチベーションは低下し、さらにその社員に対しての不信感から安全欲求の段階まで下落してしまいました。
ケース②【メンバーが安全欲求⇒社会的欲求⇒承認欲求、リーダー(自分)はX⇒Y理論】
これは私が現在行っているキャリア支援団体の時のケースです。当時新しく入ってきたメンバーに対して簡易的な説明をした後はOJTで業務を遂行してもらうようにしていました。その結果、初めは何をすれば良いか分からず辞めようかとも思ったが、業務をこなすにつれ自分が組織において貢献しているという責任感や帰属意識が生まれた、という意見をもらいました(安全欲求⇒社会的欲求)。
上記の時点では、課せられた業務に対する責任感をもった人物でした。しかし、自分としてはさらに上の意思決定をしてほしい、組織が次の段階に行くためにも大きな枠組みで仕事を行って欲しいという期待を伝えました。すると、メンバーも業務を通じて実現したいことや変えたいことを述べるようになり、一つの大きな枠組みを任せられるようになりました。(社会的欲求⇒承認欲求)
これらのケースから学んだこと
今回紹介した2つのケースから分かるように、マズローの欲求5段階とマクレガーのXY理論は運用次第で武器にも凶器にもなります。それを踏まえ、メンバーとのコミュニケーションを取る際に気をつけて欲しいことが2つあります。
- 相手の欲求段階に合った適切なアプローチをかけること。
- 必ずしも高次元に行くのではなく、場合によっては低次に落ちるリスクがあるということ。
これから研修を受ける方へ
上記二つの理論はA&PROが実践するコーチングと高い親和性があります。
- 目的・目標とモチベーションを結びつける。
- 目標に向かって主体的に取り組むように導く。
相手の状況や心理状態を的確に把握し、それに応じたアプローチを行う。感覚的には実践できても、理論として実践することはなかなかできません。研修で理論と実践のスキル両方を身に着けることで、より高次元のコーチングスキルを身に着けることができます。
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