記憶とは何たるかを知らないリーダーはメンバーの非を打つばかり。

今月の研修:記憶のメカニズム

リーダーが記憶のメカニズムを理解しておくことにはどんな意義があるでしょうか?
「そりゃあ大切なことを忘れてしまったら仕事にならないからでしょう」と思うかもしれません。研修前の私はそう思っていました。しかしそれは、主語がリーダーではなくメンバーでも言えることです。そうではなく、主語がリーダーだからこそふさわしい意義。それはなんでしょうか?

リーダーこそ知るべき記憶のメカニズム

リーダーが記憶のメカニズムを理解する意義について述べるより先に、そもそも記憶のメカニズムはどのようなものなのか、今回の研修で学んだことの概要について説明します。

情報はまず五感を通して感覚記憶として脳の大脳皮質へ入力され、海馬に送られて必要か不必要かの判断がなされます。必要と判断されたものだけ保管され短期記憶として残るのですが、短期記憶もやがては消え去ります。この忘却を防ぐためには繰り返し使うことが欠かせません。消え去らずに残った短期記憶のうちのいくつかは長期記憶として大脳皮質に保管され、長い時には一生憶えていることになります。特に、感情を動かされる出来事に関連する記憶は、扁桃体によってその形成と貯蔵が促進されます。

長期記憶はさらにその特徴に応じて3種類に分類できます。自転車を例にとって説明しましょう。
1つ目が意味記憶。自転車にはハンドルがある、自転車にはタイヤが2つある、といったようにまさに知識に相当します。
2つ目がエピソード記憶。「藤原くんは自転車で大学から下校中に、足をタイヤに挟んで1回転、左腕を骨折したらしいよ。」5W1Hで説明できる、経験に関する記憶です。
3つ目が手続き記憶。自転車の漕ぎ方のような練習や経験の反復によって形成される記憶です。
意味記憶はエピソード記憶や手続き記憶に比べ忘れてしまいがちです。そのため、意味記憶はエピソード記憶と絡めて憶えるのがいいでしょう。

ここまでが前提です。記憶に関して知っておくべきメカニズムは他にもありますが、リーダーがこれらメカニズムを理解しておく意義は何かという冒頭の問いに戻りましょう。

その答えの1つは自分だけ記憶するのではなく、メンバーにも記憶させることです。正直、私は持っていなかった考え方でした。しかし言われてみれば納得です。リーダーである自分がメンバーに何度言っても憶えてくれない、きちんと伝えたつもりのことが忘れられてしまっているといったことがあれば、両者の間で何度も繰り返される同じ内容のコミュニケーションは非効率的でしょう。

私は大学3年次まで民族舞踊サークルで「指導」という踊りの発表を執りまとめるリーダーを担当していました。自分が記憶のメカニズムについてわかっていないがために、リーダーとして相応しくない考えを持っていたことを思い出しました。

例えば、足を高く上げる振り付け。メンバーに「ここは普段より高く足を上げる振り付けだ」と教えた練習の次の練習で、一部のメンバーが足を高く上げられていなかったとき、「なんで前回説明したのに彼らはできないんだろう……」とメンバーに非があるように考えてしまったことがあります。そう、まさに本記事のタイトルのように。記憶のメカニズムを理解していれば、「まだ一回しか説明していないからもう一度説明しよう」と記憶を呼び起こすことを繰り返させたり、「足を高く上げるのが揃っていないとお客さん側からはすごく目立って見えるぞ、ヤバイぞ!」と感情に訴えるようにその重要性を強調したりすることができたはずです。
そして、そもそも真っ先にメンバーに非があると考えていた姿勢は反省しなければなりません。自分にもっとできることはないか、できたことはなかったかを考えるべきでした。
メンバーの記憶に残るよう自分が工夫できていれば、彼らの踊りの質はより高いものになったことでしょう。

まとめますと、リーダーにとって記憶のメカニズムを知り自分だけでなく相手にも記憶させようとする姿勢は、メンバーの実力アップに繋がるため欠かせません

これからリーダーとしてもっと活躍するために

リーダーとしてメンバーに記憶させることだけに躍起になって、自身の記憶力が揺らいでしまっては元も子もありません。メンバーが出してくれた重要な意見をリーダーが忘れるなんてことがあったら、信頼関係が揺らいでしまうでしょう……!学んだ記憶のメカニズムは自分のためにも、相手のためにも使いこなしていきます。

これから研修を受ける方々へ

本研修では記憶のメカニズムを学ぶとともに、そのメカニズムを自分のために、そして相手のためにどう活かすことができるかを考えます。リーダーとして、メンバーとして、これまでの仕事でできたこと、これからの仕事でできることが見つけられるはずです。

研修で学んだこと

  • 感覚記憶・短期記憶・長期記憶
  • 情報が長期記憶に残る仕組み
  • 意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶
  • エビングハウスの忘却曲線
  • 睡眠と記憶

この記事の著者/編集者

藤原穫   

秋田県出身。高校時代は強豪校でバドミントンをしていました。大学に入ってからは民族舞踊に励み、修士2年になった現在は薬物動態の研究をしています。趣味は旅行。死ぬまでにすべての温泉地を回りたいと思っています。これまで複数の組織で培ってきたリーダーシップに磨きをかけるべく、A&PROでの研修に励んでいます。

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