組織を在るべき姿に導く人財に

今月の研修:理念のマネジメント

「仲が良い○○が言ったことだから、それに従おう」

「嫌われたり生意気だと思われるのが怖いから、ここは発言しないでおこう」

「とりあえずチームリーダーの言うことを聞いておこう」

 みなさんは、このように、周囲との関係性や立場に自身の言動が左右されたことはありますか。

 私は何度もあります。関係性や立場もそうですし、周囲の噂や雰囲気に流されてしまい、後で振り返った際に、”モヤモヤ”したり反省することもしばしばです。具体的には…

  • 仲良いメンバーの意見を取り入れたくなってしまい、後で振り返って公平な判断でなかったと反省
  • みんなが合意している意見に本当は違和感があるけれど、周囲との関係性を壊したくなので意見せずに黙ってしまう
  • 自分がリーダーの時に、自分の意見ばかりが通ってしまい、メンバーが意見を言ってくれない

 といったことがありましたし、みなさんも一度はこのような経験でモヤモヤしたり反省したりしたことがあるのではないでしょうか。

 ですが、モヤモヤしたり反省したりするのは、「本来は、関係性や立場にとらわれすぎずに、行動したい」と思っているからこそではないかとも考えられます。

 勿論、関係性や立場を考慮した行動は相手への気遣いやマナーとして重要であり、それらを考慮すること自体は問題ではありません。ですが、本来、取りたかった誠実な言動が、関係性や立場によって、制限されたり躊躇されすぎてしまうことは、良い結果を生むとは思えないでしょう。

 そこでこの記事では、

周囲との関係性や立場にとらわれすぎずに
自分らしく行動するために必要な、”勇気”を持つためのコツと
組織として在るべき姿を実現できる環境づくり

 についてお話したいと思います。

 周囲の関係性や立場によって”モヤモヤ”した経験がある人には、ぜひ読んでいただきたいです。

大切な問いを投げかける勇気を

”権威のマネジメント”に陥った経験

 とは言っても「関係性と立場にとらわれすぎた経験」。漠然とイメージは出来ても、意外と具体的な場面が想定しにくいのではないかと思います。そこで、ここからは、私が”関係性”にとらわれすぎてしまった過去の経験をお話しようと思います。

中高時代によく踊っていた、学内のステージ写真

 私は中高時代、ダンス部に所属していました。中高一貫校だったため、中学1年生から高校2年生の5学年、約100名の部員が所属する、割と大きな部活でした。強豪校ではありませんでしたが、部員自ら1から振り付け、作品を作る「創作ダンス部」で、この”創作”の過程に大変さがつまっていたのです。

 最も大変だったのは、自分たちで踊る立ち位置を決める、ということでした。簡単そうに思えるかもしれませんが、一番目立つ最前列やセンター(中央の最も目立つ位置)で踊るのは誰かをみんなが納得する形で決めることが中々出来なかったのです。

 その理由は、その踊る位置の決定に際して、”関係性”という要素が強く関与していたからでした。

  • 〇〇ちゃんは最前列にしないと怒りそうだから、最前列にしておこう
  • 揉めるの嫌だから、くじ引きで立ち位置決めよう
  • ○○が最前列なのは、○○先輩と仲良いからだ

 といった具合で、立ち位置を決める側もかなり関係性悪化を恐れていますが、決められる側には関係性を利用した噂や根回しが横行している状態で、立ち位置とその決め方に全員が納得するには程遠い状態だったのです。

 そしてこれらの状態は、研修で学んだ内容を関連付けると、「権威のマネジメント」という言葉で表すことができると考えます。そもそも権威のマネジメントとは

  • 権威のマネジメント
    • 権威のある人、好きな人、気の合う人に従う企業文化
    • 個人的な関係性や好き嫌い、多数派工作で物事が決まる
    • 自身の求心力や権威を優先し、組織の理念を後回しにする傾向がある

と特徴付けられるものです。特に、好き嫌いや仲が良いかといった、個人的な関係性やそれに伴う権威に従う文化という意味で、私が所属していたダンス部の状態は十分、権威のマネジメントに当てはまっていたでしょう。

権威のマネジメントを克服する

 そして、そんな権威のマネジメントに陥ったダンス部に、苦言を呈した存在がいました。それは顧問の先生です。基本的に、顧問の先生は振付や作品に関して指導しない方針だったのですが、ある日、珍しく幹部代として同期間で部の方針を決める、ダンス部会議に出席してくださったのです。

 その会議では、揉め事や関係性の悪化を避けたいという強い想いで、私も含めて「今後、踊る立ち位置は、すべてくじ引きで決めよう」という結論にまとまりかけていました。

 そんな時、先生が

 「本当にそれでいいの?みんなはそれで良い作品になると思って納得している結論なの?」

 と仰ったのです。

 私やそこにいた同期はその言葉を聞いて、確かに良い作品にはならないかもしれないと思い始めました。やはり当たり前ですが、一番ダンスが上手い人が最前列や目立つ場所で踊った方が、観る人を感動させますし、頑張って練習して上手くなった人が目立つ場所で踊れる仕組みの方が、頑張って練習する環境にも繋がります。

 本当は「本来なら、関係性にとらわれずに、より良い作品作りにために出来ることをやりきる」ことの重要性を分かってはいながらも、実践出来ずにいた私を含めた同期にとって、先生の言葉は本当に大切なものは何か”を見直すための重要な問い」になったのです。

 そして先生からいただいた貴重な問いをきっかけに、もう一度、同期間で話し合いをしました。その結果、客観的にダンスの技術を評価する指標を作成し、それに基づいて実力に応じて踊る位置を決めることにしようと決意することができたのです。

 その後は、この実力に応じた位置決めには一時期反発もありましたが、「部活として、より良い作品を作るためには、重要なことである」という、メッセージを発信し続けると、少しずつ理解が得られるようになっていきました。また、関係性や好き嫌いに左右されずに、立ち位置などの部活内の意思決定が出来る文化が、同期間だけでなく、段々と部活内に広がっていったのです。

 そして、これらの状況は、権威のマネジメントと比較すると、理念のマネジメントという言葉で表すことが出来ます。理念のマネジメントは

  •  理念のマネジメント
    • 理念・使命・理論に基づいた人に従う企業文化
    • 組織での役割を重視し、理念に基づいて建設的に物事が決まる
    • 説得力のある意見が採用され、表面的な偏見を排除する傾向がある

 と定義づけられるものです。関係性や好き嫌いに左右されずに、組織の理念やそれを実現するための役割を全うするための行動を徹底しきる勇気のある文化、という意味で当てはまるでしょう。

 そして、このような関係性にとらわれすぎずに、理念のマネジメントを実現するためには、小さなコツがあります。それは、「尊敬する人なら、どうするだろう」という想像力を持つことです。

 そしてこれは、ダンス部においては、顧問の先生を尊敬する人として思い浮かべました。同期間で「やっぱ仲悪くなるし…」といった、自身の利害を重視した自分だけの視点の判断にならないように、「〇〇先生だったら、どういうだろう」という視点を同期間で互いに共有し合ったのです。

 きっと誰しも、自分の立場や周囲との関係性を考えると、中々組織にとって本当は大切な判断や言動だったとしても、躊躇してしまうことはあるはずです。
 そんな時に、自分視点に終始せず「尊敬する人だったら…」と視点を前向きに変えてみると、自分や組織が大切にしている理念を実現する”小さな勇気”を持てるのではないでしょうか。

組織の理念を大切に出来る組織を作る

 ここまでは、個人の視点で、関係性や権威に左右されずに、組織としての理念や目的に対する誠実な行動をとるための”勇気”を持つコツについてお話ししました。そこでここからは、「自分が組織の一員として、組織の理念を大切にする”理念のマネジメント”を実現するために何が出来るのか」という、より組織の視点で論を展開したいと思います。

 そこで、ここでは私がen-courageというキャリア支援団体で、ある部署の責任者として活動している経験を基にお話ししていきます。

 その部署は、団体がコアサービスとして行っている「就活生へのキャリア面談」のサービス設計から、面談側への研修、問い合わせ対応まで、面談サービスを一気通貫で管轄する部署でした。そのため、顧客である就活生からの問い合わせに対応するという直接的な意味でも、面談をする側への研修を行うという間接的な意味でも、「顧客からの信頼を獲得する」ことが重要な部署であったのです。

 そしてそんな部署は、2022年の2月に立ち上がった部署であり、私は諸事情もあり同年6月から前任者と交代する形で責任者になりました。ですが、部署責任者の就任当初は、顧客からの信頼を失う可能性があるルーズな仕事ぶりや、部署のルールが後回しにされる状況が散見され、「顧客からの信頼を獲得する」には程遠い状態でした。

 そこで、私は組織としてあるべき姿を目指すために以下の3つのプロセスで、マネジメント方法を検討しました。

  1. マネジメント方法を検討
    1. 理念のマネジメント、権威のマネジメント、どちらを重視するべき組織なのか、それは実現可能なのかを判断する
  2. 上記のマネジメントを実現するために、自分が持つべきスタンスは何か
  3. 上記のマネジメントを実現するために、構築すべき仕組みは何か

 1.マネジメント方法を検討

 まず、1つ目として、組織の目的や状態を鑑み、理念のマネジメント、権威のマネジメント、どちらを重視する組織かを判断しました。理念のマネジメント、権威のマネジメントといったマネジメント方法に正解はありません。だからこそ、その組織に合わせてどのようなマネジメント方法をとるべきかを検討する必要があります。

 具体的に私の部署の場合は、「顧客からの信頼を獲得する」という部署が大切にすべきことを考えた際に、メンバー同士の関係性や好き嫌いではなく、顧客に対してどういう行動をすべきかという理念に基づいたマネジメントが必要ではないかと判断しました。

 また、理念のマネジメントを実現可能なのか、という問いも自分自身で立てて、検討しました。この点に関しては、前任の責任者が、「相手の意見や行動を否定せず、その背景を尊重したコミュニケーションをとる文化」を醸成してくださっていたので、自他の良さを活かしながら理念に基づいた組織としての正解を導く土壌はあると考え、理念のマネジメントは実現可能性はあると考えたのです。

2.理念のマネジメントを実現するために、自分が持つべきスタンスは何か

 次に、2つ目として、理念のマネジメントを実現するために、自身が大切にすべき姿勢について考えました。この際には、既述の「尊敬する人ならどうするだろうか」という視点を原動力に、2点を大切にすることにしました。

 1点目は、組織の理念を実現するための「当たり前」を誰よりも徹底して守るということです。当たり前を守り、理念を実現するための道筋を背中で示すことは、当たり前を大切にする文化作りにもつながるでしょう。

 2点目は、組織の「当たり前」を徹底出来ていないメンバーに対して、その事実を指摘するということです。短期的な関係性悪化を恐れずに、組織の「当たり前」の背景を伝えながらも、耳の痛いことも伝えきる。このように、理念や組織主語でコミュニケーションをとる勇気を持ち続ける意識は、やがて周囲のメンバーに良い影響を与えるはずです。

3.理念マネジメントを実現するために、構築すべき仕組みは何か

 最後に3つ目として、組織の「当たり前」や理念を実現するための行動を徹底できているかを、客観的に評価する仕組みを構築しました。具体的には、理念を実現するために必要な最低限な行動を可視化した上で、それらを実行しきれているかのチェックシートを作成し、それを基に互いの行動を確認し合いました。また、理念を実現するために必要な行動を自主的に取ってくれたメンバーには、リーダーからだけでなく、メンバーからも称賛する機会を定期的に設けることで、メンバー一人ひとりが理念を実現するために必要な行動を思考するきっかけを作りました。

 そして、これら3つのことを実行していくと、段々と組織としての「当たり前」を大切にしている誠実なメンバーを大切にするような文化が醸成され、組織としても理念の実現に近づいただけでなく、メンバーの誠実な努力を大切にできる組織に変化していったのです。 

 つまり、理念のマネジメントを実現することは、組織の理念を実現するだけでなく、メンバー一人ひとりの誠実な努力を大切にする、人財を育て、その人財を大切にし続けることに繋がるのです。

最後に

 今回の記事の内容を要約します。

  • 権威のマネジメントとは
    • 権威のある人、好きな人、気の合う人に従う企業文化
    • 個人的な関係性や好き嫌い、多数派工作で物事が決まる
    • 自身の求心力や権威を優先し、組織の理念を後回しにする傾向がある
  • 理念のマネジメントとは
    • 理念・使命・理論に基づいた人に従う企業文化
    • 組織での役割を重視し、理念に基づいて建設的に物事が決まる
    • 説得力のある意見が採用され、表面的な偏見を排除する傾向がある
  • 組織の理念を実現するためには、自分視点に終始せず「尊敬する人だったら…」と視点を変えてみることが重要
  • 理念のマネジメントを実現する組織づくりのためのプロセス
    1. マネジメント方法を検討
      1. 理念のマネジメント、権威のマネジメント、どちらを重視するべき組織なのか、それは実現可能なのかを判断する
    2. 上記のマネジメントを実現するために、自分が持つべきスタンスは何か
    3. 上記のマネジメントを実現するために、構築すべき仕組みは何か
  • 理念のマネジメントは、誠実な努力をする人財を育て、その人財を大切にし続ける

 耳の痛いことも言える誠実なリーダーを大切にしているA&PROでは、一つのテーマに終始せず、仲間とともに研修を通じてリーダーに求められる素養を学び、記事執筆を通じて学びを言語化しています。リーダーになる覚悟のある方の参加をお待ちしております。

研修で学んだこと

  • 理念のマネジメントはプロジェクトマネジメントの土台である
  • 権威のマネジメント:好き嫌いや噂文化が横行し、誠実な人が疲弊するマネジメント
  • 理念のマネジメント:理念に即した言動が評価され、相談すべき人に相談がいくマネジメント
  • 理念のマネジメントを実現するためには:相談すべき人に自他ともに相談することを大切にしながら、理念を基にあるべき姿について行動するメンバーを評価する仕組みとコミュニケーションをとり続ける
  • WBSの重要性:行動やメンバーの動きに組織として優先順位をつけ、可視化するために重要

 

 

 

 

この記事の著者/編集者

本田花   

早稲田大学文化構想学部卒。大学3年時までは、中高生の留学支援団体であるAFS日本協会神奈川支部の学生代表として、コロナ禍の組織再生に奮闘。大学4年時には、日本最大のキャリア支援団体en-courage早稲田支部において、面談部署の責任者としてキャリア面談サービスの設計・研修体制の改善に挑戦。
上記の経験における多くの人や価値観との出会いを糧に、社会人としては、総合コンサルティングファームにて「他者に還元出来る知見や経験に溢れた利他的なコンサルタントになる」ことを志している。

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 上野美叡

    2022年10月28日

    「当たり前」を誰よりも徹底して守る、守れていないメンバーにはそれを指摘する、客観的に判断する機会を設ける。簡単なようで簡単でないことだと思いますが、実現した結果が、メンバーの誠実な努力を大切にできる組織となったということ、素敵だなと感じました。ぜひその素敵な組織づくり、続けていってもらいたいです。また、私も実践したいと思いました。

最新記事・ニュース

more

「メラビアンの法則」や「真実の瞬間」と向合い、各メンバー自身がブランド形成の重要要素であることを自覚していきます。 「目配り」「気配り」「心配り」の各段階を理解し、「マナー」「サービス」「ホスピタリティ」「おもてなし」の違いについて研究。 「マニュアル」「サービス」を理解・実践するのは当然。 「ホスピタリティ」「おもてなし」を顧客・メンバーに提供したいリーダーのための研修です。

島元 和輝 荒 諒理 川瀬 響 3Picks

行き過ぎた完璧主義は仕事を停滞させるだけでなく、自分自身を苦しませてしまいます。本記事ではプロジェクトマネジメントを題材に、自分の良さをかき消さず、最大限発揮する仕事への取り組み方を考えます。完璧主義で悩んだことのある皆さんに是非ご覧になって欲しい記事です。

大庭彩 左貫菜々子 藤井裕己 谷 風花 4Picks

プロジェクトマネジメントを機能させる土台となるのが『理念のマネジメント』 プロのリーダーは、「権威のマネジメント」を避け、「理念のマネジメント」を構築し、維持し続ける。 「好き・嫌い」や「多数決」ではなく、説得力ある提案を互いに尊重する文化を構築したいリーダーのための研修です。

荒 諒理 木藤 大和 島元 和輝 川瀬 響 4Picks

復習回数を闇雲に増やしたり、ノートいっぱいに何度も書かせる記憶法は、社会に出てから通用しない。 多忙なリーダーは、重要事項を一発で覚える。 たとえそれができなくても、復習回数を最小限にし、効果的・効率的に記憶することが大切。

「やばい、キャパオーバーしていて仕事を回しきれていない・・・。」成果を生み出すためにリーダーを務め、多くの責任を引き受けたのはいいものの、こうした悩みを抱く方は少なくないと思います。本記事は、リーダーの方の中でも、「仕事を回しきれていない。」と実感している方、経験した方、キャパオーバー対策したい方に届けていくことを想定して進めていきます。キャパオーバーは解決できます!

そもそもプロジェクトとは何か。それを知ることによって、あなたが現在取り組んでいる活動をもっと豊かにすることができるはずです。プロジェクトの基本を学び、そのプロセスについて考えてみましょう。

大庭彩 上野美叡 2Picks

タスクには明確に優先順位が存在し、正しい優先順位でタスクに向き合うことが締め切りへの余裕につながります。緊急度と重要度のマトリックスを用いて改めてタスクへの優先順位をつけることを意識したいです。

大庭彩 1Picks

皆さんがリーダーを務める組織にはMVVやスローガンと言ったメンバー全員が認識している「共通目標」はありますか? そして、今その「共通目標」を何も見ずに口ずさむことができますか? もし、一度決めたことがある共通目標が形骸化してあまり浸透していない場合は私と同じ苦悩を経験するかもしれません。

大庭彩 1Picks

たとえ意見が対立しても、プロのコンサルタントやコーチは相手を導くことができる。 基礎1~3を通じて、科学的なメカニズムから築き上げた実践型コーチングについて、ロールプレイを中心に活用方法をトレーニングしていきます。 現場の活動と有機的に結びつける知恵と、今後のプロジェクトに活かす行動力。 これらを大切にするリーダーのための研修です。