記憶と感情の関係、あなたは説明できますか?
2019.06.22
今月の研修: 記憶のメカニズム
学習内容そのものを伝えるだけでは不十分
今回の研修では、外部から得た情報が脳内でどのように伝達され、どのように記憶として定着していくのかのメカニズムを学んだ後、現状の生徒指導にどのように生かすことができているかを振り返るとともに、今後どのような改善ができるかを深掘りしました。
その中で自分にとって最も印象深いことが、『覚えたことを長期的に記憶し続けるためには、「意味記憶」だけに頼るのではなく「エピソード記憶」をうまく活用することが有効である』ということです。この理由を「意味記憶」と「エピソード記憶」の違い・扁桃体の役割と関連付けながら説明していきます。
意味記憶とは、ある事項そのものを単なる知識として覚えている状態を指します。つまり、その事項を覚えた当時の周辺環境・感情などは覚えていないが、とにかくその事項だけは覚えているという状態です。一方エピソード記憶とは、覚えたり経験したりしたこと自体に加え、その当時の自分自身の置かれた状況・感情などもセットで覚えている状態です。そして一般的には、意味記憶よりもエピソード記憶の方が記憶の定着度は高いとされています。例えば「水素にマッチの火を近づけるとポンっと音が出る」という教科書の文言を単に暗記(意味記憶)するよりも、実際に試験管とマッチを手にして自分で実験(エピソード記憶)をした方が、その後の定着度は高いでしょう。
次に扁桃体の役割についてです。扁桃体とは、情動的な事柄によって刺激が加わる脳の器官で、長期記憶をする上で重要な役割を果たす海馬と密接に関わっています。この海馬に対しての扁桃体の作用が高まるほど、記憶の長期定着は促進されます。つまりある経験をする際、何かしらの感情を同時に抱くことで扁桃体が刺激され、その経験が長期記憶として定着しやすくなると言えるのです。
以上のことを踏まえると講師には、知識・考え方などの教えるべき内容をきちんと伝えることに加え、毎回の授業そのものが生徒にとって特別な経験となる、そんな授業をすることが求められます。では、具体的にどのように特別な経験を与えるか。アプローチの仕方は様々だと考えます。例えば、なかなか計算ミスがなくならない生徒に対して、3時間の授業の中でミスを何回以内に抑えるという目標を設定・達成させることで、生徒自身に「自分はできるんだ」と自信をつけさせ、達成感を抱かせることができます。逆に、「今回は10題中1ミスだったけど、本番が100点中60点取れるテストだったら、6点落としてるってことだよね。その6点で落ちたらどうするの?」と、あえて現実になってほしくない状況を想像させることで、生徒自身に危機感を抱かせることができます。大事なことは、生徒の扁桃体を刺激するために、生徒自身に何かしらの感情を抱かせることです。
最後に、こうした授業設計を完璧にマニュアル化することはできません。だからこそ、目の前の生徒はどんなアプローチの仕方をすれば感情的な反応を見せるのかを探りながら、日々研究を重ねていきたいと考えています。
これから研修を受ける方々へ
今回の研修では、日常で私たちが半ば無意識におこなっているであろう記憶という作業に関して、科学的なメカニズムをもとに深く学ぶ事ができ、とても勉強になりました。と同時に、普段から関わっているからこそ、そのメカニズムを知らないままでいることはもったいないし、怖い、とも感じました。いわゆる学校の勉強以上に、学んだことをその後に生かせる内容だと思いますので、読者の皆さんもぜひ参加してみてはいかがでしょうか!
研修で学んだこと
- 記憶はその定着度に応じて以下の3段階に分けられる(感覚記憶・短期記憶・長期記憶)
- 与えられた情報を短期記憶、更には長期記憶へと結び付けていくためには、脳内の海馬が必要な情報だと認識することが必要
- 情動的なアプローチを付随させることにより、扁桃体への刺激が加わり長期記憶へと結びつきやすい
- 復習を繰り返すことにより、その後忘れてしまう内容の割合が減少する
前田佳祐 早稲田大学教育学部