リーダーのコミュニケーションに「絶対解」はない
2023.04.15
今月の研修:リーダーシップパワー理論
はじめに
皆さんは「リーダー」と聞いて、どんな人を思い浮かべますか?
メンバーを強い力で引っ張るリーダーをイメージする人もいれば、とにかく対話を大切にするリーダーをイメージする人もいるでしょう。
人によってリーダーの理想が違うにもかかわらず、巷では「リーダーかくあるべき」のように、一般化した議論が展開されがちです。本当にリーダーシップの「絶対解」は存在するのでしょうか?
私自身の経験を目印に、その難しさと重要さを説明していきます。
今回の記事で伝えたいこと
- リーダーに「こうしていればいい」という終わりは存在しない
- メンバーの言葉だけを鵜吞みにせず、どう影響力を与えるかを考え抜かなければいけない
- リーダーのメンバーへの接し方が適切でなければ、他のメンバーにも悪影響がある
- 人材配置においても、そのメンバーへ「どう伝えるか」が大切である
- メンバーへの接し方を考え抜くことは、リーダー自身の成長につながる
「相手に即した」リーダーシップの重要性への気づき
以前の私が定義していた「リーダーシップ」
以前の私は、メンバーに優しく寄り添うことがリーダーのあるべき姿だと思っていました。争いごとを好まず、いわば「ことなかれ」主義だった私は、サークルの副幹事長としてもとにかくメンバーとの対話を重視し、小さな犠牲を払ってでも平和を求めていました。だからこそ、とにかく話す相手の不安を取り除き、和ませようと注力していました。
「話しやすいリーダー」「いい意味でリーダーっぽくない」
こうした声をもらっていたのも、自らのキャラクターの結果だと感じています。そして私は、これこそが「リーダーのあるべき姿」だと思っていました。
NPO団体でそれを実践してみて…
私のリーダーへの意識が変わったきっかけがあります。所属するNPO団体で、「セクション」という6人チームのリーダーを務めた経験です。
私はこれまで通り、とにかく一人一人へと優しく接することで、信頼を得ようとコミュニケーションを重ねていました。つまり、自らの「人あたりの良さ」を前面に押し出して、影響力を及ぼそうとしていたのです。例えるなら、『北風と太陽』の太陽のような接し方だったと述べることができます。
例えば、あるメンバーAが三週続けてタスクを消化せずにミーティングへ来ました。Aは仕事しなかったことを毎回謝罪し、「次こそはやってきます」と誓っていました。私はその状況で厳しい言葉はかけず、むしろ重い空気を和まそうと軽い冗談も言っていました。Aが自分から行動してくれることを信じていたからです。
しかし、行動が根本的に変わることはありませんでした。それどころか、「今週はゼミの課題が終わってないから」「今週は内定先の課題に取り組まなくて…」と、出席することすら疎かになっていきました。つまり、Aの中で活動の優先順位が下がっていったのです。
失敗の原因を考察する
原因をA自身の内面に求めるのは容易ですが、私はそれが真因ではなかったと振り返っています。私自身のAへの影響力の与え方こそが問題でした。
Aが実際求めていた接し方は、二点に集約できると考察しています。一点目は「賞賛」のコミュニケーションです。「自分は褒められると伸びるタイプだ」という発言を何度か聞いていて、それはAの顕在的なニーズだったにも関わらず、この観点での接し方が不足していました。
二点目は「社会的地位」に即したコミュニケーションです。言葉から直接聞けずとも、「立場」が上の人に追従しようという潜在意識が見えました。だからこそ、ゼミや内定先のタスクをNPO団体内のタスクより重んじ、自分たちとの約束を守らずに過ごしてしまったのではないか、と考えます。
さらなる悪影響と気付き
この「失敗」に伴う悪影響は、「A対自分」の問題で留まりませんでした。「セクション」で中心的な役割を果たしていたメンバーBが、私の彼女への姿勢に疑問を感じるようになったのです。
幸いだったのは、Bが直接自分へその声を届けてくれたことでした。冗談も交えながら、「もっと厳しいコミュニケーションを取るように」とアドバイスしてくれました。私は直接声を届けてくれたBに、最大限感謝しています。それと同時に、厳しい環境下で育ってきたBだからこそ、「懲罰を加える力」をもって彼女へ影響を与えるべきだと話してくれたのではないかと考えました。
つまり、私自身のAへの関わり方、Aが求めていたAへの関わり方、Bが求めていたAへの関わり方。そのそれぞれが異なっていたのです。
いずれにせよ、私が誰かと接する際の姿勢を誤ってしまうと、本人だけでなく周囲にも悪影響を及ぼしてしまうということに気付きました。メンバーの時間と空間を預かっている大きな責任があるからこそ、相手のことを考え抜く姿勢がより必要だと痛感させられました。
一歩先のリーダーシップを発揮するために
人材配置の難しさ
団体においてのリーダー経験は、リーダーシップの難しさと奥深さを再認識するものでした。一方現在は、もう一段難易度が高いリーダーシップを求められる環境にいます。
現在の私は、NPO団体における次代への引継ぎを主導するメンバーの一人として、入会してくれたメンバーの人材配置を考えるポジションを兼務するようになりました。
その中で、人材配置がいかに難しいかを実感しました。まず、そのメンバーと長く関わっていないからこそ、相手のことを短時間で理解しなければいけないということ。そして、こちら側からの期待を含んだ「メッセージ性のある」配置を実現する必要があるということです。
意識していること~メンバーの実例から~
とりわけ後者において、意識していることがあります。それは、「何を伝えるか」だけでなく「どう伝えるか」まで考え、実践するということです。
例えば、「自身の就活に生きるような経験をしたい」と考えるメンバーCについて、団体メンバーの採用に関わるポジションへ配置した上で、「採用する側がどういった視点で相手のことを観察しているかを学んでほしい」と期待を伝えました。
その際、称賛を重んじるメンバーだと判断したからこそ、「頑張ったら就活に活きるよ」という伝え方をすることで、活動にコミットするメリットを魅力に感じてもらうことにしました。
一方で、「数学的な思考より定性的な思考が得意」と考えるメンバーDについて、同じく団体メンバー採用のポジションに配置し、「人との関わり方という強みを発揮しつつ、数学的思考力という弱みを克服できるはず」と期待を伝えました。
その際、周囲の人間的魅力を重んじるメンバーだと判断したからこそ、「採用という対話が必要な位置だからこそ、話が面白いメンバーがいるよ」という伝え方をすることで、活動に取り組む仲間との楽しい時間を魅力に感じてもらうことにしました。
同じ採用に携わるメンバーでも、CとDで期待することに関する伝え方を大きく変え、「その人にとっての」ツボを、「その人に合ったやり方で」押すことを意識しました。結果として、CもDも異なるやりがいを感じながら活躍してくれています。
この実践はまさに、先述したリーダー経験があったからこそ実現したと感じています。より高いレベルで学びを活かせることに対し、自分自身もやりがいを持って取り組めている実感があります。
おわりに
リーダーとして修行を重ねる中で、一つ成長を感じる点があります。それは、メンバーと接する際の「引き出し」が増えているということです。ただ優しいだけでなく、ただ厳しいだけでもなく、相手の状況や求めるものが何かを考えて接し方へ反映させる習慣がつきました。
そして、その成長に終点はないと考えています。「影響力」は相手の心の中に生じるからこそ、人の数だけ接し方があるからです。相手の心の中へどのように「影響力」を及ぼすか、常に学び実践することは、必ずやリーダーとしてのステップアップへ繋がるはずです。
これから研修を受ける方へ
この研修は、リーダーとして「留まろう」ではなく「成長しよう」とする方に向けた研修です。「リーダーシップの取り方は一つではなく、同じ人間の中でも様々な手札を使い分けながら、相手に確かな影響力を与えていくことが大切である」と、科学的に納得することができます。
今回の研修で学んだ内容
- 「影響力」は相手の心の中に生じる
- リーダーシップは、時と場合によって最適な形が異なる
- 人は自分の欲求に応じて他人から影響を受ける
- 相手との信頼は、日ごろの行動の積み重ねであり、あいてに聞くまでもない
- 「見て見ぬふり」をすることは、それ自体が不誠実な行いである
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新着コメント
早稲田大学 文化構想学部 2022年02月25日
私も人材配置に携わってきましたが、原の記事を読んで振り返ってみると、短時間で相手の欲求を見抜き伝え方を変える意識することまでできていなかったなと気づきました。
何を伝えるかだけではなくどう伝えるかまで実践すること、という言葉が大変響きましたし学びとなりました。とても素敵かつ相手のことを想った考え方だと思います。
これはエンカレッジの卒業を迎えてからも、一緒に働く人やクライアントとのコミュニケーションにおいて大いに役立てられると感じます。これからの社会人生活において、相手の欲求に合わせて伝えることまで意識しようと思います。
早稲田大学教育学部数学科 2022年02月25日
「その人にとっての」ツボを、「その人に合ったやり方で」押すことを意識しました。という言葉がとても刺さりました。
私自身「リーダーシップとは」という問いを問い続けていたからこそ、絶対解はないという原の学びにとても考えさせられます。
原の普段のコミュニケーションは全てに意図があることを知っていたので、原の考え方を自分でも生かしていきたいと思います。
早稲田大学 文学部 美術史コース リーダーズカレッジ リーダー 2022年02月25日
同じ内容でも相手によって伝え方を変えていくべきという原自身の学びが伝わってくる内容でした。
メンバーが本当は厳しい言葉を求めているのに、優しさや甘さをもったリーダーシップをとり失敗した原の経験とは、まさにリーダーの多様なアプローチを学ぶきっかけになったのだと思います。
私自身、自分のコミュニケーションスタイルに依存して、合わないメンバーは仕方ないと考えていた時期もありました。しかし、原の記事から伝え方の一工夫で相手を動かすことは可能になることを学べました。